第23話 ボロボロ

 俺は移動してその場に倒れこんでそのまま眠ったようだ。目覚めるとまた部屋にいる。もちろん草介博士のだ。なんだか悪い夢をエンドレスで見てるようだ。


「お、目覚めたね。樹君。また銃を落として」

「あ!」


 博士のいたって平和な言い方は気になる。そして批難めいた目で俺を見ている。

 それもそのはずだ、今回は刀を握り占めていたのは覚えているが、そういえば銃は落としたままだった。


「あ、あの博士……」


 言い訳じゃないんだが何か言わないとと思って口に出したものの続きが出てこない。


「ヒナタ君が持って帰ってくれたからよかったけど……」


 おいおい、ヒナタが持って帰ってたのかよ。俺はさっきまで疲労で眠ってたんだけど。ギリギリのところまで戦って帰ってきたんだ。少しは体も心配してくれよ。なのに、まだ博士はブツブツ言ってる。


「改良したんだろ? 落としたぐらいでまた壊れるのか?」


 お前が衝撃に強くしたって言うから気兼ねなく銃を落として刀を抜いたんだよ。まあ、どっちにしろあの状況だから銃は落として刀は抜くんだけど。命かかってないけど、切られたり刺されたりするのは嫌だ。


「そこじゃないよ。置いてこないでくれないかな? 銃を一から作るのは大変なんだよ」


 そっちかよ。


「ああ、わかった。悪かったよ。次からは気をつけるから。だからもう少し休ませてくれ」

「ダメだ! 」


 え? まさかの、ここでダメ? こいついったい俺のことなんだと思ってるんだ!


「んで、ダメなんだよ! 立ち上がるのも辛いのに」

「着替えてくれないと。今回着替えずに行っただろう? それじゃあスーツが壊れてる状態だからね。ああ、新しいスーツはもう部屋に置いてあるからね」


 着替えかよ。俺は手を床につき這い上がるように立ち上がる。そして、フラフラな足取りで着替えの部屋に向かう。


「いつ……博士! 」


 ヒナタがなにか言いたそうに博士に声をかけているが、今の俺はそれを聞いてる場合じゃない。小部屋のドアを開け中に入る。

 ハンガーラックごとスーツはこの小部屋に移されていた。その中の一着を取り出して着替える。朦朧とした意識の中で。




 着替え終わったら、ボロボロのスーツを持って部屋を出る。全く嫌になる。傷も小さくなってスーツも新しくなると、なんで自分がこんなにも疲れてるのかわからなくなるよ。


「はい。これ」


 部屋を出てすぐそばにいたヒナタに持っていたスーツを渡す。


「うん。樹……」

「あ。もう寝るから」


 床に横になろうとした俺をヒナタが受け止める。なんだよ! 寝かせてもくれないのか?


「樹。ソファー持ってきたからそこで寝て。ほらそこ」


 ぼんやりとした目で見るとそこには寝心地の良さそうな茶色の布張りの大きなソファーがあった。どうやって運んだんだろう? っていうか、どっから持ってきたんだ? いろんな疑問が湧くがその前に眠りたい。横になりたいという欲望がくる。


「ああ、わかった」


 ヒナタにそのまま支えられる格好でソファーに座り横になる。床よりも断然こちらの方がいい。傷はどんな状況でも回復するが、俺の体力は床に寝るんじゃ回復できないみたいだな。心地がいい………。




「樹? いける? 」


 目の前にレイナがいる。……いける? ああ、敵が来たんだな。俺は体を起こしてソファーから立ち上がる。よし、いけそうだ。


「ああ、大丈夫。いける」

「じゃあ、私も行くね」


 レイナが消える。ん? ヒナタはもういない。一人で先に行ったんだな。無茶して。探知機を取り出す。敵の数を示す点滅はさっきより増えてるな。さっきみたいな位置と場所だと銃が使えるんだけどな。赤いボタンを押す。お! 傷も治ったみたいだ。次は無傷で終わってくれ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る