第21話 普通
目の前には先に戻ったヒナタと草介博士が翔子肩を抱えて移動していた。奥の扉の方へと。
ハアハア
息はなかなか戻らない。それでも翔子の様子を見たくて近寄る。
「樹! 翔子はもう大丈夫だから。樹も休んで」
横からレイナが出てきて俺を止めた。
ハアハア
俺は言い返す言葉もなく刀をしまい、その場に座り込んだ。
「俺の……俺の銃のせいじゃないよな? 」
翔子の倒れていたところは瓦礫の山に近かった。俺の撃った銃に巻き込まれたんじゃないのか?
「ち! 違うよ。博士からその銃の威力は聞いてたから樹の近くでは戦ってない」
「でも、あそこに……」
「樹の銃の音が止んで敵を追っかけて翔子はあそこにいたんだと思うよ。傷も切傷だったし。それに最初、翔子はあそこにはいなかった。私のそばで戦ってたんだし」
「そう。そうか……翔子……大丈夫なのか? 」
自分がやったんじゃなくても、翔子の体の心配は変わらない。
「大丈夫。博士のあの機械は死んでなければ時間さえかければ回復するよ。樹のその体に使った薬もあの機械の延長線上の研究だって博士が言ってたし」
この体が……自分の傷がみるみる回復してるのをみて少し安心する。はあー。死んでなければって……俺も死んだらやばいのか? いや、不死身か。とにかく翔子は大丈夫そうなんで少し安心する。
「ちょっと横になる。来たら呼んで」
少しでも休めないと体が持たない。その場の床に横になる。
「うん。わかった。おやすみ。樹」
そのレイナの言葉に答える間もなく眠りに落ちる。疲れてるな俺。授業中筋トレしなくて良かった……。
目覚めるとヒナタとレイナが何か話してる。
「樹……銃……」
「……翔子の……」
ん? なんの話だろう?……まさか!!
俺は起き上がり座り込む。まだ立ち上がれない。
レイナ達はちょっとビクってしてこちらを見た。
「おい! やっぱり翔子の怪我は俺の銃が原因なんじゃないか? 」
と、二人は顔を見合わせてレイナが笑いだした。え?
「んだよ? 」
「ごめん。今の会話、断片だけ聞こえてたんでしょ? 」
レイナが笑いを含んだ声で聞いてくる。
「え? あ、ああ」
「やっぱり。今の会話聞いて急にそんなこというから、つい笑ったじゃない」
「何の話してたんだよ?」
確かに聞こえた会話は断片的だったが……。
レイナが笑ってるってことは翔子の怪我たいしたことないんだな。
「樹の銃の威力すごいな。あれなら普通怪我なんてしないんじゃない?」
決められたセリフのようにさっき言った言葉を繰り返し言っているんだろうぶっきらぼうにヒナタが言う。
「私なんてこれなのに。翔子の武器も、って話してたの」
……結局、俺は笑いものだって話だったのかよ。
「ああ、どうせ俺はスーツ着て腕輪も着けてこの銃持って傷だらけだよ」
しかも瀕死? いやもう死んでるな本当ならば。切られてもその瞬間から回復してるからな。
「仕方ないよ。みんな、はじめから出来る訳じゃないし」
「それに私たちもつけてるしな」
え? つけてる? そいうえば三人とも胸元になぜかネックレスをお揃いで……ま、まさか!
「その服もか!? 」
「もちろん生身で奴らにかなうわけないじゃない。ネックレスに戦闘用の服にも博士の力で戦力や防御力がアップされるようになってるよ」
爽やかに俺の今までの苦悩を晴らしてくれるレイナの言葉。おいおい、俺だけこんなにダメだと……って、コラ、おい! 最初の何回か俺、制服姿のままで行かされたよな? いくら不死身で敵の数が少なくて腕輪もつけてるからって、やってくれるよ。あいつめ。草介!
「あんな敵にそのままは無理だろう? 普通? 」
バカにした響きにも取れる声で聞いてくるなヒナタ。だけど、それでも毎回俺だけ傷だらけなのは確かだ。翔子達が強いのには変わらない。『樹』もつけてたのか。さっきヒナタは普通って言ったよな。
「それじゃあ、『樹』も? 」
二人は少し目を見開き、レイナが答えた。
「こっちの世界の樹も腕輪つけてそのスーツじゃないけど戦闘用の服を着てたよ」
やっぱりこのスーツを着てたんじゃないのかよ。博士の趣味を俺に押し付けたな。
「それは鍛える時間がない樹用に作られたんだよ」
レイナが博士のフォローをする。まあ、でもレイナの言うとおり、全身包まれてないのは危ないんだろう。このスーツは腕が飛ぶような攻撃を受け止めているんだから。それでもこんなに傷だらけなんだ。傷を見るともう肩も脇腹も半分以上回復してる。この体にしなければ一回目ですでに死んでたろうしな。
「そうか」
「樹あの……」
ガチャ
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