第20話 瓦礫の山
翔子の声が聞こえた。
ブゥオン
という音と共に振り返るともうそこには翔子はいない。
ブゥオン
「樹! 」
ヒナタ、なんか人使い荒いよ。もうすでに、俺にそう言ったヒナタは消えてるけど。
わかってるよ。はいはい。
俺も新しい銃を腰のベルトにしまい、探知機を取り出す。ゆっくり話す暇もないのかよ!
赤いボタンを押す。
怪我がないのいいな。多少頭をシェイクされた感覚だけで済むから。
ここは……英語圏だな。アメリカかな? 行ったことないからわからないけど。まあ、異世界の、だけど。
点滅は昨日の最後と同じくらいだ。こちらの人数はレイナがいるから一人増えたけど気合い入れないと。さっき仕舞ったばかりの銃を取り出す。
ズギューン
ドゴーーン
ズギューン
ドゴーーン
ズギューン
ドゴーーン
しまった。敵の多さについ前の感覚で銃を撃ってしまった。確かにすごい威力だ。アメリカのどっかの都市の建物ごと敵を吹っ飛ばしてる。地下鉄では絶対使えないな。一発で埋れてしまうぞ。
だけど、博士の張り切りのおかげで怪我しなくて済むかも。
ズギューン
ドゴーーン
ズギューン
ドゴーーン
ズギューン
ドゴーーン
爽快を通り越して建物なんかを破壊しすぎで気が引けてくる。が、しかたない昨日の怪我を初っ端に喰らうわけにはいかない。次の戦いもあるんだろうから。俺が動けなくなるのは危険だ。まあ、その俺の戦力って、ほとんどこの銃なんだけど……。あとは不死身な体とこのスーツと腕輪だな。……俺は全く関係ないじゃないか。博士の力じゃないか。と、こんなことを考えてるのは……余裕があるんじゃなくて瓦礫の山の周りが砂埃をあげるんで敵が見えないからだった。間違えて翔子達に当てるわけにいかない。視界がよくなるまでの時間を使っていただけだ。
……そろそろか
ズギューン
ドゴーーン
ズギューン
ドゴーーン
ハンバーガーのチェーン店らしき看板がビリビリっと音を立ててもがれて落ちてきた。
ズギューン
ドゴーーン
そろそろかな?
今度は銃を刀に持ち替えて、刀を握り砂埃の中に突っ込む。相手がひるんでるところを切っていく。まあ、こんな事でひるんでくれるような敵ではないけれど。もう倒れるわけにはいかない。翔子に涙を流させたくないんだ。『樹』を思って。
バシュ
バシュ
バシュ
相変わらずの切れ味だな。昨日、刀も落としてさらに引きずっていたのに。と、今度は接近戦だ悠長にしてる場合じゃない。油断してやられてる場合じゃない。
バシュ
―――
ハアハア
肩から胸にかけて思い切り切られた。クソ! 今度は無傷で帰れると思ったのに。しかもまだ終わってない。
振り返り
バシュ
銀の腕を振りかざして来た敵を斜めに斬りつける。
ハアハア
まだいるのか敵が? あの翔子のかけてる探知機メガネが欲しいよ。
来た!
バシュ
痛みがないんで腕ごともってかれない限り、体を切られても動けるのはいいな。あとは俺の体力しだいかよ。
敵が真っ正面から突っ込んでくる!
う!
バシュ
またかよ。俺って脇が甘いのか? 敵を切る寸前に脇腹をまた切られた。何度目だよ。脇腹やられるの……もう数えてないけど。
周りに目を配る。そろそろ体力の限界だ。探知機を出す。点滅はあと一つ。
後ろ!
振り向き刀をそのまま振り切る。横一文字に。
バシュ
上下に切られた青い色で染まった敵は上体がドサリと地面に落ちた。数秒後フラフラと敵の下半身が倒れた。
ハアハア
終わった。探知機で確認して良かったよ。
ハアハア
念のため探知機でもう一度確認する。点滅は全てなくなっている良かったこれで終わった。銃で作り上げた瓦礫の山を見るとやっぱり心配だ。翔子達を見に行こう。
ハアハア
自分で作った瓦礫の山をなんとか超えて行く。この銃の威力、前と同じくらいに博士に戻してもらった方がいいのかな? 怪我してなければ言えるのかもしれないが……今のこの状態じゃあ何も言えないな。
ハアハア
「樹! 」
呼ばれた方を見る。レイナ……!! レイナが膝をついてる。その足元には翔子が倒れている。駆け寄りたいが傷と体力の限界で歩くのが精一杯だ。
「レイナ! 翔子は? 」
声をかけるしかない。
「大丈夫だと思う。今、翔子を送るから、樹も戻って」
「ヒナタは? 」
「さっき自分で戻ったから」
そう言いながらレイナは翔子のメガネに触れた。すぐに翔子の姿が消える。そして、そのすぐ後にレイナも消えた。
それを確認して俺も探知機を出して青いボタンを押す。
右肩と左脇が引っ張られながら俺は移動する。
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