第14話 スーツ

「おかえり! ああ、スーツ……」


 博士……傷だらけの俺には目もくれず、スーツがズタズタなのを見てるよ。まあ、実験が成功したか確認するために、俺の腕をチェーンソーで切った人だから、今さら俺の傷を気にする訳もないんだろうけど。


「敵の数が凄い多かったよ! もしかしていつもあれぐらいなのか?」


 最初は一人……と表現していいかわからないけど、一人だったのがもう何十といる。だが、この銃だ……こんなの一人に対して大袈裟過ぎるんじゃないか?


「最初……奴らが現れてすぐの頃には少なかったんだが、徐々に増えていってね。最近ではかなりの数で襲ってくることの方が多いくらいだよ」

「あいつら増えていってるのか?」


 それって……恐ろしい。あんなのが増え続けたらたまらない。


「言ってないよ。博士!」

「そうだったか?」


 翔子のツッコミに疑問で返す博士。まだなんかあるのか?


「奴らは殺した人間に化けるのか……殺した人間になりかわって出てくるのか、とにかく死人が襲ってくるようなんだ。奴らに襲われて殺されたと思われる人間の死体も全て消え去っている。樹君がいなくなって他の仲間も去って行ってからは、人間は奴らの獲物になったと言ったろう?」


 博士、そこはバッチリ覚えてるじゃないか!


「だから、人間が殺されるとその分奴らが増えるようなんだ」

「何で殺された人間になってるってわかるんだ?」


 最初の化け物だった少女が思い浮かぶ。


「仲間が……殺された仲間が敵になって出てきたからよ」


 ヒナタが博士の代わりに答えた。死んだ仲間が現れる……それは衝撃的だな。そして、……仲間は死んだってことだよな……やっぱり命がけなんだよな、これって……。不死身な俺は関係ないけど、あとの三人は奴らの攻撃を一発でもまともに喰らえば終わりだ。命が……。

『樹』というヒーローがいなくなって、ここを去った人たちの気持ちがわからないでもない。ヒーローですらダメだったんだ。恐怖心も膨らんだし、心の支えもなくなったんだろう。


「そう、そうか」


 それしか答えられない。……話をかえてみる。


「あの後の処理はどうするんだ?」


 敵の死体と……あの場にいてやられた人の……は、あ、さっき博士が言っていた。殺された人の死体は全て消え去っていると。じゃあ……。


「敵の死体と街の整備は君たちが去った後に警察と消防でやってくれている。運良く生き残った者は救急車で病院に行くんだろうが奴らの攻撃を受けて無事な者はそうはいないからな」

「戦闘したことで壊れた街の修復は国のお金でちゃんと元に戻されてるよ」


 ヒナタが博士に続いて俺の聞きたかったことも付け足してくれた。さっきの銃撃戦というか俺の一方的な銃撃で街がかなりやられてたんだよな。気になってたんだよ。こんなに銃使ってもいいのか? と思いながら攻撃していた。まあ、あの状況だとやらざる得なかったけど。敵の数が多すぎた。あ……でもあそこにいた敵も全て……前は生きてた人間……。あの少女も……。いや、考えるのはよそう。そんなこと思ってたら攻撃できなくなる。


「樹? 大丈夫?」


 俺はずっと黙っていたのか翔子に声をかけられる。いろいろ考えてたら黙り込んでいたみたいだ。


「ああ、大丈夫だよ」


 本当は大丈夫なんかじゃない! こっちに来て何回死んだかわからない。今も腕も肋骨も修復中だ。

 でも、そう言うしかない。もう辞めるなんて言えない。死んだ仲間に襲われても、ヒーローである『樹』が死んでも、ここにいる彼女達は戦い続けているんだ。俺じゃないんだ、この世界は俺の世界じゃない、とか言ってられない……もう、言えないよ。

「とりあえず次の襲撃の前に着替えてくれ」

 と、博士は俺にまた今着ているのと同じスーツを渡す。また……これ? まあ、実際かなり助かったんだけどね。これの形状絶対変えれると思うんだけど。あえてこの格好にしてるよな……博士。

 切られまくって、スーツを台無しにしないようになるまでは文句は言えないよな。言ったら何言われるか……。どうせ俺は『樹』じゃない!



 いつもの小部屋で着替えて、さっきまで着ていたボロボロになったスーツを博士に渡す。博士、そんな悲しそうに受け取るなよ。

 が、博士はスーツを手に取るとスーツを広げて見ながら


「なるほど、これは直せるな。ほうほう」


 どこのじいさんだよ、そのしゃべり。そんなになってもそのスーツ直せるのか……形状が変化するなんてことはしばらく来ないな。きっと。

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