第13話 銃

 例の小部屋に着替えを持たされ入れられる。強引な奴らだよ。鞄を置き渡された着替えを広げて一応どんな服だか確かめる。おいおい! 何で俺だけ戦隊物のスーツみたいなわけ? 動きを重視してるんじゃないのか? 色はさすがに黒なんでまだ救いがあるけれど。

 でも……もう制服のストックはないだろう。これを着るしかないか。どうせズタズタになる、次の替えは俺も身軽なものにしてもらおう。

 着替えて小部屋から出ると草介博士以外なんか含み笑いなんだけど。これ! この世界の樹は着てないのか! あいつの、博士の趣味か。


「おい! これ動きにくいぞ! 俺もああいうのでいいんだけど」


全身真っ黒なスーツ姿。首から手首足首まである。

 翔子達を指差し言ってみる。


「これは特殊なスーツなんだよ。樹君、いくら不死身で再生もするれけれど、それには時間がかかるだろう? そのスーツならば、多少の攻撃なら跳ね返せるしパワーもアップするんだから。君の今の戦闘能力なら、これくらいは我慢しくれないと」


 クソ! 戦闘能力の低さを言われて、昨日散々切られた事を思えば文句は言えない。


「わかったよ。当分はこれで我慢するよ」

「はい。じゃあ、これも、これも、これと……」


 昨日の装備も武器も渡され次々につけていく。ああ、幻どころか本格的なヒーロースタイルになってるじゃないか!?


「ププ……」


 後ろで笑ってるのはレイナだな。あいつは……この世界の俺がわからないのと、俺が弱すぎなので草介博士のいう通りにするしかない。が、あの笑い。絶対に博士に遊ばれてるな、俺。




「あ、来た!」


 翔子の声。

 と同時に


 ブゥォン


 という音。振り向くと翔子はもういない。


 ブゥォン


 という音と同時にまたヒナタもいなくなる。


「はい。樹君」


 例の探知機を渡された。うわ。点滅多いな。なんて言ってる場合じゃない。


「樹! 行くよ!」


 と、レイナも消える。

 探知機の赤いボタンを押す。今日はスーツ着てるからか、怪我がどこにもないからか、酷い乗り物酔いな感覚だけですんだ。




 ここは……すごい街中だな。人っ子一人いない……化け物以外はかな? 敵の数が多いし、銃を使うことにする。これだけいたら当たるだろう。探知機をスーツになぜかついていたポケットに入れてしまう。

思えば初めて銃を使う。最初は狙いがつけられなかった。素早く逃げられて引き金を一度もひけなかった。二回目は翔子達に当たるのを懸念して最初から刀にした。今回は数が多いのとどうやら近くに翔子達はいないということがわかったから。戦う音はちょっと距離がする方から聞こえる。この馬鹿でかい銃の威力見せてくれよ博士!

 俺は銃を握る。黒光りしている銃はツルツルしていてまるで銃自身が光を放っているようだ。俺は銃口を敵が群れてる方へむけて、引き金を引いた。思っていたよりも軽く引き金を引けた。が、


 ギューン

 ドゴーン


 おいおい。嘘だろ。敵は六体ほど軽く舞い上がり地表へと叩きつけられた。なんだよこれ。ただの銃じゃないガンだよ。いや、違いはないけど。想像以上の威力を発揮してくれた。見た目通りといえばそうだが。撃った感触はほとんどない。ただ反動はかなりあった。後ろに体を押される感じがする。銃が大きいからかバズーカを撃った感じなんだろうか………撃ったことないけど、バズーカ……体全部が後ろへと持っていかれる感じだ。



 そんなわけで、最大級に目立った俺めがけて敵はやってくる。ヤバイ!


 ギューン

 ドゴーン


 ギューン

 ドゴーン


 ギューン

 ドゴーン


 この攻撃でもう翔子達もこちらには近づきはしないだろう。この大惨劇。なんだよこれ。銃が当たる範囲が広すぎて俺にも狙ってる場所がわからない。光とかで見えればいいんだけど。音波? 何波? 速くて見えないのか? 弾があるとは思えない。何が出てるんだろう。


 ギューン

 ドゴーン


 これ、街を破壊してる気分なんだけど。いいんだろうか? とにかく敵の真ん中を狙う。


 ギューン

 ドゴーン


 そろそろ敵がまばらになってきた。銃を腰にさして、刀を抜く。今日は切られません様に!


 次々に腕を凶器に変える敵を切っていく。うわ! いきなり切られた! あれ? 右脇腹をかすったと思ったのに……大丈夫そうだ。さすがに今は傷口を見て確認している余裕はない。その後もかなり切られたはずなのに終わってみると腕と左の肋骨あたりが切れてるだけだ。だけって言っても、充分死んでてもいい深さの怪我だろうけど。

 このスーツ凄いのはそこだけじゃななかった。走る速さまで違ってて一瞬自分の動きについてけなかった。加減して走らないと感覚が追いつかない。

 そして、力もだ。もともとこの刀自体が切れ味凄いのに、今日は切った感覚もあまりしなかった。敵の攻撃を刀で受け止めた時の感触で一番このスーツの凄さがわかった。ジリジリとせめぎ合う時間がなくなった。ガキン! と敵の攻撃を弾いてすぐに攻撃出来る。両腕が凶器な二刀流の敵を一刀だけで止めるのに苦労してたんだけど、これでかなり楽に敵の攻撃を弾き返して攻撃できるようになった。博士……マジで俺じゃなくていいんんじゃないか?


 新たな敵がいるか周りを見渡す。翔子がこっちを見ている。翔子が俺を見てこちらを見たまま手をあげて消えた。もう敵はいないんだな。探知機を取り出して見ると点滅は一つもない。俺は青いボタンを押す。


 うお。傷口!! 傷口を……もう言葉にするのも気分が悪いんでやめる。

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