第6話 ヒーローまがい
もう一度引っ張られる感覚。うわ傷口が引っ張られる。痛みはないけどキツイ! 酷い気分になった途端に、またあの男の部屋だ。
「おかえり。ああ、結構やられたね」
ああ、不死身じゃなきゃとっくに死んでるよ。って! それよりもあの敵だ! なんなんだ、あれは?
「あれなんだよ!」
「だから、敵だって」
「敵ってあんなのどこにもいないだろ? いたら大騒ぎだよ! お前が作ったんじゃないのか?」
こいつならやりかねない。ヒーローには悪がいるとか何とか言って。遊びで作ったのか? あんな危険な化け物。
「ああ、ダメか」
「ダメかじゃない! 危ないじゃないかよ。他にも作ってないだろうな?」
こいつの考えはわからない。
「違うよ。あれはいるんだ。僕の生きてる世界にはね。やはり最初から話をしないとダメだね」
「は?」
意味がわからない。
「どういう事だよ。お前も俺も同じだろ?」
まあ、俺は今や不死身の体なんだけど。もう不死身以外の何者でもないと自覚するよ、この傷で生きてるなんて。
「実はね、この家を異世界と繋いだんだ。ヒーローだった樹君を異世界で探してもう一度戦ってもらうためにね」
「え? ヒーローだったって?」
「僕のいた世界と君の世界は並行世界つまりパラレルワールドって言われる世界なんだ」
「……」
何の話をしているんだ、こいつは。もう訳がわからない。
「僕のいた世界にはさっき君が戦った宇宙人がいるんだ。多分宇宙人なんだろうと思われるんだが、本人たちが名乗ったわけでも、誰かが見たわけでもないんだけどね。ある日、突然現れて人間を襲い出したんだ。そこにヒーローが現れたんだ。樹君、パラレルワールドでの君がね」
「俺……」
パラレルワールドの俺。
「ところが、ついに樹君がやられてしまったんだ。人類は奴らの獲物状態になった。危機的状況だね。奴らはただ僕ら人類を殺して楽しんでるだけのようだ。人に化けて突然襲ってくる。だから、僕は別世界の樹君を探して今度は不死身にしようと考えた。ただ君の前に突然現れてこんなこと頼んでも無理だろうから、一度小学生の君と親しくなった。そして、不死身になる薬だといって、ここに来るようになる薬をしこんでおいたんだ。君が友達と一緒にいると思ってたのはすべて幻覚で友達はいなかった。そもそも草介という友達は君の幻想だよ」
「草介が幻想……」
そういわれると、草介との思い出が何も思いつかない。だんだんと顔もおぼろげになってもう思い出すこともできなくなってきた。
「そう私の名前が草介だからね」
「ああ! 草介博士!」
草介博士! 俺はずっとそうこの男を呼んでいた。小学生の頃に。
「やっとたどり着いたかい。『ゾンビパウダー』という言葉を合言葉にして、君にはここに来なければならない幻覚を見るようにした。昔の記憶は曖昧になるものだけど、さらに薬の作用で曖昧にしておいたんだけどね」
曖昧にしたせいでこいつのイメージは最悪な物だけが残ったみたいだ。
「お前がゾンビパウダーって俺に言ったのか?」
確かテレビの声は少女のものだったのに。まあ、幻なんだけど全ては。
「いいえ。私が学校から出てきた樹の後をつけて、後ろから囁いたの。そうしたら樹、博士が言ったとおりに、急に独り言を言い出して、博士の家に向かって行ったわ」
少女が突然部屋に入ってきた。黒髪をポニーテールにしているが相当髪が長いんだろう腰のあたりまである。短パンにティシャツ、スニーカーとラフな格好をしている。短パンから伸びる素足はちょっとまぶしい感じだ。突然の登場と少女の連想がさっきの化け物だったんで必要以上にビビってしまったが……誰? そして俺の独り言劇場を楽しんでたのか含み笑いしてる。敵ではなさそうだけど……嫌な感じだな。
「ここに来てヒナタ君を草介という友達だと思っていたいみたいだったからね。話をあわせるのが大変だったよ」
ここにいた草介……不自然極まりない態度だったよなあ。話を合わせるも何もないだろ! 俺の妄想がそっちに合わせてたんだよきっと。
「誰?」
「ああ、樹君にはさっきは草介という友達だと思って見えていたからね。初対面となるね。ヒナタ君だよ」
いや、この子の名前はさっきの流れでわかるって。
「だから、名前じゃなくて、誰だよ? 俺になんの関係があるんだよ!」
同じ年の様だけど会ったことはない。学校でも見かけた記憶はないし……。
「い、樹、酷い……」
「え? えええ?」
初対面の少女にこんなリアクションされてどうすればいいんだよ。
「ヒナタ君、この樹君は別世界の樹君なんだから仕方ないよ。説明しただろ?」
「うん」
少女はすっかりしょげかえっている。うん。って思ってないよね。絶対納得してないな。
「ヒナタ君はいわば樹君、ああ、別世界で戦ってた樹君の仲間だったんだ。一緒にずっと戦ってきたんだ」
「……じゃあ、戦ってるのは俺だけじゃないじゃないかよ!」
今までの話だと俺しかこの世界を救う者がいなかった的な話だったよね。それが……仲間がいたって、いるなら……まあ、女の子なんだけど、いいじゃないかよ。別世界の俺をわざわざ連れて来なくても。しかも不死身にさせてまで。
「そうなんだよ! あと紹介するね。こっちにおいで! 二人とも」
おい! あと二人もいるならなおさらだろ? いらないよね、俺? 肩も脇腹も再生中のこんなヒーローまがいな俺!
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