第7話 英雄視

 さっきの少女、ヒナタが出てきたドアから出てきた二人を見て唖然とする俺。博士の趣味なのか?

 出てきたのはショートヘアの少女と二つぐくりにしたメガネの少女だった。なぜに戦うのが少女ばっかりなんだよ。ワザとか草介博士の好みか? そしてメガネの少女には見覚えがある。


「翔子、なんでここにいるんだ?」


 草介の記憶は幻だった……翔子もそうなのか? 翔子は幼馴染だった。小中高と同じだった。ただし、俺の知っている翔子はメガネをかけてはいない。俺の記憶はどうなってるんだ?


「ああ、そうだったね。樹君と翔子君は向こうの世界で知り合っていたんだね。けれど、ここにいるのは樹君の世界の翔子君ではないんだよ」

「俺の世界の翔子じゃない……」


 翔子まで幻ではなかったというホッとした気持ちと、俺の知っている翔子ではなく別人だといういよいよ本当に別世界……パラレルワールドを信じないといけなくなるのかという不安とで俺の気持ちはかき乱された。


「そう! はじめまして。私も樹を知ってるからなんだか不思議なんだけど」


 翔子は少し困った笑顔で俺を見ている。やっぱり本当なんだ。ここは別世界……。


「私も紹介してよ!」


 ショートヘアの子が元気に入ってくる。戸惑いゼロだな、この子は。


「ああ、最後に彼女はレイナ君だ。君が戦いだして私が奴らに対抗できる武器を作り出した。そして、彼女達が集まってきたんだ。他にも十名ほどいたんだけどね。この世界の樹君がやられてしまって他のみんなはやめていってしまったんだ」


 それでか、俺が必要なわけか。樹でなければならなかった……ってこと? でも!


「俺は俺だ! この世界の樹とは違う! 普通の高校生だぞ! だいたい……時間おかしくないか? 小学生の俺に仕掛けてからだと……」

「異世界へ行けるんだよ。時間くらいなんとでもなる」

「……時間もかよ」

「私の力ならね!」


 その力で敵もどうにかはできないのかよ。っていうか、ここ本当に別世界なのか? さっきのビルは特におかしくは……少女の化け物に気を取られてそう言えばあまり周りを見てなかった。

 窓に近づきカーテンを開ける。そこには……普通の家並みなどなかった。荒廃してボロボロになった町が……ってこともなく、ただのコンクリートの壁が見えただけだった。カーテン意味ないじゃないか! 光が差し込まない訳だよな。そもそも窓の外に光がないんだから。


「ハッハッハッ! ここは地下だよ。地下基地なんだよ」


 酔ってるね。博士は自分のヒーロー感覚に酔ってる。


「地下基地って、なんで内装はあっちと同じなんだよ」


 あれ? でも俺が見たここって全部幻想? それかここをはじめから見てたのか?


「あっちの世界の草介は祖父と二人であの家に住んでいたんだがね。ちょうど君とコンタクトを取ろうとした時に二人とも事故にあったらしくて行方不明だったんだよ。なので、私があの家をそっくりそのままもらい受けたんだ。こっちは地下に作り直したんだけど。気に入っているんだこの家を。それにしても、なかなか大変だったよ。小学生の君と別れてからもあそこで暮らしているのを装うのは」


 面倒臭い奴だな。作り直したり、偽装したり。


「俺の幻想や、幻覚でどうにかできたんじゃないのか?」

「いやそうでもないんだよ。家を今の状態で置いておく必要があったからね。それに、こことあそこを常に繋いでおかないと、途中で切れてしまったり、別の世界につながる恐れもあるからね」


 時間も! って言って自慢気に言ったわりに脆い繋ぎ方じゃないかよ。


「じゃあ、俺にここにいろっての? そのさっきの化け物と戦う為に、この世界を救えっての?」

「ああ、それは大丈夫だよ。時間も操れるからね。樹君は昔のように学校が終わったらここに来て私達を助けてくれたらいいだけだよ」


 だけって、不死身じゃなきゃバッサリと切られてたんだけど……。さっき。


「俺にする意味あるの?」

「あるとも! 君が最初に立ち向かったんだよ。僕の事を子供の頃から知っていた君は奴らが暴れまわり社会が崩壊に向かう前に僕のところに来た。立ち向かいたいから武器を作って欲しいと。奴らが人間に扮するのでわからなくなるのを防ぐ為に奴らの居所がわかるようにと探知機も作って欲しいと言われた。君はこの世界のヒーローなんだよ。だから、樹君がいなくなって皆は希望を失ったんだ」

「俺は俺で、こっちの俺じゃない!」


 自分の功績でも居心地が良くない時もあるのに、全く知らない場所で勝手に作り上げられた、俺という、もう一人の俺への英雄視なんて居心地が悪いを通り越してる。


「でも、君じゃなきゃダメみたいなんだ」


 草介博士の言い方……いろいろ試した結果なのかもしれない。十人以上いたのが今では四人しかいなくなったんだ。


「あ、出たよ!」


 急に翔子が話に入ってきた。出た?


「じゃあ、お先に」


 ブゥォン


 と光の刀をどこからか出して翔子がメガネを触ると消えた。え?


「私も」


 と、こちらは俺の持ってる銃と似ているがだいぶ小型化した銃を手に、探知機の赤いボタンを押してレイナも消える。


「じゃあ」


 と軽く笑い同じく


 ブゥォン


 という音がして光の刀が見えたと思ったらヒナタも消えていた。


「さあ、さあ!」


 草介博士は楽しそうなんだけど。俺の回復まだ完全じゃないんだけど。肩は治ったが脇腹はまだ肉出てるよ。

 一応探知機を見る。点滅は一つだけではではなかった。十以上あるだろう。おいおい、あいつら先に行ったんならこの敵を倒してるのか?……えーい! どうせ不死身だ。赤いボタンを押してポケットに探知機を入れる。

 またもやえぐられる感覚。頼む移動は治ってからにしてくれよ!

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