第4話 不死身
目覚めてすぐにどこにいるか確認する。まだ、……あの洋館だ。今度は寝かされてる。天井にはシャンデリアが見える。さっきいた部屋のようだ。窓はどれもカーテンがかかってる。昔の洋画に出てきそうな、ひだのある分厚いものだ。だから、中には窓からの光は射し込んでこない。どれだけ時間がたったのかこれじゃあわからないな。
ベットは普通のベットじゃない。硬くて寝心地最悪だ。昔のアニメの手術台みたいな感じ。そして、また手足と胴体、今度は首までも固定されてる。そして、こちらを覗き込んでる博士がいる。
「やあ、目覚めたかい?」
「なんだよ? ゾンビになったのか俺?」
そんな感じは全くない。まあ、ゾンビになった感覚なんて知らないけど。
「樹君! ゾンビって言ってたのは君じゃないか! 僕は不死身になる薬だと言ったんだけど、樹君がそれじゃあ、ゾンビだ! って。パウダーだったから、ゾンビパウダーだって、樹君がそう名付けてくれたんだよ。だから、本当はゾンビじゃないんだ。ごめんね」
謝るところが違う。俺はゾンビになりたかったんじゃない。そして、今はヒーローにもゾンビにもどちらにもなりたくない!
「いいから、離せよ。俺を家に帰らせろ!」
「いや、まだ実験してないからね。ちゃんと完成したか確認しないと」
確認? ええ? 不死身を確認するってこと?
「おい! なにするんだ?」
ダメだよ。あり得ない。男は………博士はチェーンソーを持ってる。切る気だよな! 俺を!
ギュイーン
とうとうチェーンソーに電源を入れられた。ありえない。博士でも変人でも化物でもない。こいつは殺人鬼だ!
「やめろ! やめて! やめてくれー!」
俺の声はチェーンソーの音にかき消される。誰か気づいてくれ! 家の中からチェーンソーの音がすることに! 誰か!
男は近づいてきて俺の腕にチェーンソーの刃を当てる。うわー。見てられない。自分の腕が!
俺の意識はそこで途絶えた。多分無意識に自分で自分を気絶させたんだろう。例え見なくても自分の腕が切られているなんて耐えられない状況だ。頭が勝手にシャットダウンしたんだろう。
また、目覚める。まだ、シャンデリアが見える。さっきの部屋だ。よくも意識が戻ったもんだよ。ん? なんか変だな。腕に痛みがない。痛過ぎておかしくなったのか、俺の神経。それとも……。
「やあ、目覚めたかい。意識がなくなったから失敗したかと思ったよ」
「お前、失敗してたらって! え? 成功したのか? 俺がふじみ……?」
さっき切られた右手を見る。ない………先がない。が、そこにあるような気がする。痛みも全くないし。でも、先に手がある感覚があるんだ。なぜか。
「そうだよ。君が眠ってる間に、もう骨も肉も皮膚もずいぶん再生しているよ」
もう一度右手を見る。そうだった。ひじのあたりを切られていたのに今は手首のあたりまで右手がある。見ていると徐々に骨から再生をしているようで次に肉がそして皮膚がかぶさっていく。
ああ! 気持ち悪い。しかも自分の体だし。まさにゾンビパウダーだよ。ああ、でも死んでないから違うのか? ってそんなことはどうでもいい! 不死身ってどのくらい不死身なんだ?
「なあ、どれくら……」
いや、これは確認すると博士に何をされるかわからない。じゃあ試すと言われて、博士に殺されまくることになりかねない。
「ん? なんだい?」
「これって病……」
あ、病気になるのかって聞こうと思ったがやめた。ダメだよ。いろんな死にかかわる病気のワクチンも注射されかねない。
「ん?」
「ああ、あの……その、年はとらないとかあるのかなって」
はあー。なんとか博士が実験出来ない質問がやっと思い浮かんだ。危ない。何度も殺されるなんてごめんだ。しかもまた目覚めるとは限らない。
「うーん。難しいなあ。樹君の体は再生を続けるからね。そこは経過を見ないと何とも言えないなあ」
え? マジで年もとらない可能性があるの? 嫌だよ。変だろ? どうすんだよ?
「年、とらないかもしれないの?」
「まあ、正義の味方には犠牲はつきものだよ」
……正義の味方……ヒーロー……こいつはまだ言ってるのか。その為に俺はわけのわからないものを注射されて、不死身なのかなんなのか、腕を切られても痛くもなく再生する体にされたのか。
「正義の味方って、どこに悪があるんだよ!」
世の中には悪はある。世の中いい人ばかりじゃないのはいくらなんでも知っている。ただ、世の中にあるのはこんな能力で解決できる悪ではない。こいつの言ってる悪もきっとそこを指してはいないだろう。きっとあのポスターにいる悪だ。そんなものこの世界のどこにもないのに。
「あるんだよ! じゃなきゃここまでするわけないじゃないか」
こいつは自信満々だ。どうせあのポスターを指すんだろ。んなもんどこにもないのに。
「ああ、はいはい。とりあえずこれ外してくれよ」
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