第3話 ゾンビパウダー完成
そしてまたここに入ってしまった。どう見ても普通の洋館だ。って、普通は玄関だろ? 明らかに普通じゃない。ここはドラマや映画で観る洋館そのものだった。優雅な階段が上にウエーブを描いて伸びている。ドレスを着た少女が今にも降りて来そうだ。バックにあるステンドグラスはキラキラと太陽の光を色んな色に変えて階段をさらに演出している。
「さあ、こっちこっち!」
男が今度は俺を引きずるように、そして草介が俺を押す形で別の部屋へと移される。草介なぜこの洋館に違和感を抱かないんだ。そして、俺がこんなに嫌がってるのに気にしないんだ。
「樹のお宝は何かな?」
ああ、もう草介の性格がこんな形でアダとなるなんて。
「さあ、ここに座って」
何かいかにも洋館にありそうな椅子に座らせられた。肘掛まであるタイプだ。なんで俺だけ座らすんだ?
ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ
え?
椅子に座った俺の腕もウエストも足まで固定された。
なんだよこれ? アニメで見た記憶はあるが、なんでこんなものを作ってるんだ、この変人?
「おい! これなんだよ?」
「樹のお宝は?」
なんで俺がホールドされてるのに気がつかないんだ、草介。
「これだよ!」
男の指し示した先にはいろんなヒーローのポスターが貼ってあった。思い出した。そうだった。俺ももう小学生だというのにヒーローものが好きだったんだ。高学年になって周りにその話をする人が誰もいなくなった。ヒーローの話をするやつがいなかった時にこの男に会ったんだ。そしてその話で盛り上がり、家の中に入ったんだ。男もヒーローに憧れていて次々と男の考案したヒーローの武器や装備や何かを見せてくれた。
そしてあの日……ヒーローになれる薬だと言われてゾンビパウダーを飲まされたんだ。体が紫色になって怖くなって逃げ出した。家に帰って母親に問い詰められてここに来ていた事を話たんだ。そして、草介の家も出入り禁止となったんだ。
「へー。これか。ふーん」
草介にはもちろん興味のない品物だろう。そうだ、草介もう帰ろう。なんとかここから俺も一緒に出してくれ。
「そうなんだよ。じゃあ、樹君とはちょっと話があるんで」
「あ、そうなの。じゃあな。樹!」
「いや、待て! 俺も帰る!」
草介なぜあっさり俺を置いて自分だけ帰るんだよ!
「樹君! 完成したんだよ! ついに、いやー長かったよ」
「じゃあ。俺は邪魔みたいだし帰るな。また明日な」
「おい! 草介! 俺も帰る! 帰るー! 俺を置いていくなー! 草介ー!」
この俺の叫び声を背に信じられない事に草介は帰ってしまった。あっさりとドアの向こうへ消えてしまった。
バタン
この俺の状況を見て、この洋館を、そして、何よりも怪しいこの男を見てなぜ俺を置いて帰れるんだ、草介。お前が一番信じられないよ。
「樹君! ゾンビパウダーだよ! 完成したんだ!」
「ゾンビパウダー? まだあれやってたのかよ! 俺は飲まないからな!」
いくら体を固定しても口を開けなければいい。草介がいないんだ。今は固定されてても筋力ならこっちの方が上だ。
「ふふふ、そう思ってゾンビパウダーは飲むのではなく、注射タイプにしといたから、大丈夫だよ」
なんで、この状態をもうすでに想定してるんだ。そして、嫌がる俺を想定してるのに大丈夫ってどういうことだよ。
男は言葉通りに注射器を持って来た。
「やめろ! やめてくれ! ってなんで? なんで? ヒーローがゾンビなんだよ!」
チクッと腕に痛みが走って意識が遠くなる。ゾンビになるの俺? 嫌だ! また失敗して全身紫色とかでいいから! なりたくないよー! ゾンビ!
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