第2話 オバケ屋敷
なんで? なんで? あいつは俺の名前を知ってるんだ? そして小学生の頃から会ってないのになんで俺だってわかるんだ? 俺だってわかってるんだよな? 疑問だらけの俺にもわかることがある。あいつは危険だと。
「樹の知り合い?」
「いや、知らない。行こう」
草介の腕を取って先を急がせる。
「え? でも、今お前の名前を……」
「いいんだ。ってか、お前覚えてないのか?」
「何を?」
「ここが……」
お化け屋敷だってことをと言いそうになって、ちょうどあいつと鉢合わせの状態になってたので続きが言えなかった。そうあいつはこちらに向かって来ていた。医者でもないのに白衣を着て、手入れもされていないだろうグレーがかった黒髪を肩まで伸ばして、目だけは爛々と輝かせている。青白い顔は相変わらずで年もとったかわからない。もともと老け顔だったのか俺の記憶の通り、昔のまんまでそこにいた。あれから五年以上は経ってるのに。まだ二十代半ばにしか見えない。
「樹君! ついに完成したんだよ! 是非君に見てもらいたいんだ」
今日は見てもらいたがる奴ばかりか。俺はちっとも見たくない。
「いえ、いいです。さようなら」
「樹! いいのか?」
草介なぜ邪魔するんだ。お前が立ち止まると先に行けないだろう。そいつは危険な奴なんだって。雰囲気でわかるだろ? 気づけよ! あいつは家の中から、しかも怪しげな洋館から白衣を着て出てきたんだ。
立ち止まっている草介を引っ張るが草介は動かない。
「いいんだ。俺のお宝を見るんだろう? 行こう」
俺のお宝なんてどこにもないが、ここはそれで草介を釣るしかない。
「え? なんだよ樹! お宝あるんじゃないか! 樹は恥ずかしがり屋だな」
もういい。それでもかまわない。ここを無事に通り過ぎれば。
「樹君! ダメだよ。君のお宝はここにあるじゃないか?」
え? なんの話だ? 何言ってるんだよ、こいつは。
「何だよ樹! 凝りすぎだよ。演出しちゃって!」
「してない。してない」
だいたい今日の帰り道で、草介からお宝の話を聞いて、何故に演出が今出来るんだよ! 草介たいがいにしろ! お前考えろ、そして見ろ! 奴を。そして俺を。
「またー。そうか、樹って恥ずかしがり屋だもんな」
俺が恥ずかしがり屋なのはさっきの会話からだろ? 俺にそう言ったのはじめてだろう、さっきが!
って、ああ、草介なぜ行くんだ。その家に。お化け屋敷だって、ここは……。
「草介! 違う。行くぞ」
クソっ! 体格が同じ草介を連れ戻すのは難しい。連れ戻すつもりが逆に引っ張られている。しかも、あいつもグイグイ俺を後ろから押してくる。ああ、このままだと中に入ってしまう。化物屋敷に!
「草介! だめだ。こいつのことは知らないんだ。本当に」
「え? でも、樹ってお前の名前を知ってるじゃないか?」
「そうだよ。樹君。酷いじゃないか。小学生の頃は毎日ここに来てくれていたじゃないか」
え? 毎日? あ! そうだ。思い出した。小学校からの帰り道、毎日草介の家に寄っていた。その帰り道にこの男と話をするようになったんだ。何の話かわからないが、話がすごく盛り上がって俺は男の家に入ってしまった。そして、あの日が来たんだ。ゾンビパウダーを飲まされた日が。
ああ! 不意に思い出した過去のせいで力を抜いてしまった。とうとうお化け屋敷、男の家に入ってしまった。あ、思い出した俺はこいつを博士って呼んでいた。面白い発明を見せてくれて、毎日面白がってここに来てたんだ。周りの奴らがお化け屋敷と呼んでいたここに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます