人形遊び
幼い頃、袋に入れた人形をサンドバッグみたいにして遊んだことがあった。今思えば残酷なことだ。
なぜそんな遊びをしたのか、もう思い出せない。
その人形の入った袋を里帰り出産で帰ってきた実家の押し入れの奥で見つけた。
懐かしくて引っ張り出そうとした手が止まる。
確かあの時、捨てたんじゃなかったっけ?
そうよ。動くはずのないものが動いたんで怖くなったんだ。それで袋のまま橋の上から川に投げ捨てた――
それがなぜこんなところに?
「ねえ。昔遊んでたわたしの人形覚えてる?」
隣のリビングでお茶を飲んでいる母に訊いた。
「え? 人形なんて買った覚えないわよ。そういえばあんた、近所の赤ちゃんをよくあやしてたわね。でもあの子、さらわれて行方不明のまんまなのよ。覚えてる?」
あ、思い出してしまった。袋詰めにしたものが何かを。だから捨てた――
じゃ、これは何?
袋がもぞもぞ蠢き、ふぎゃぁと泣き声を上げた。
「きゃあ」
わたしの悲鳴に母が「どうしたの?」と飛んでくる。
押し入れの奥を指さしたが、そこにはもう何もなかった。
お腹の中がぐりりっと動く。
あんなに楽しみだった出産が今はとてつもなく怖い。
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