渡り廊下

 渡り廊下に幽霊が出る。

 とある温泉旅館の話だ。

 豪奢な新館の裏には旧館があり、現在そこは倉庫代わりになっている。渡り廊下は新館の裏手からその旧館に伸びていた。出入り口には立ち入り禁止の張り紙をし、従業員以外は使用できず鍵までかけてあるのに、なぜか渡り廊下に出てしまう客がいるのだという。

 仲居頭の話では、その幽霊は二十数年前、不倫中の別れ話がもつれて首を吊った女だそうだ。お祓いしても除霊できなかったため新館まで建て直したが、今度は渡り廊下に出るようになった。


 夫は着いた時からおかしかったと中年夫婦の妻は語った。家に帰りたがる夫を説得し温泉に入りに行く途中、気付いたら暗い渡り廊下に立っていたという。

 怯え泣き喚く夫は妻が止める間もなく引きずられるように旧館の闇に消えた。

 従業員総出で探すも見つからず、妻は今も途方に暮れている。

 ただ、それ以降、渡り廊下に幽霊は出ない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る