忘れ物
買い物カゴぐらい自分で片づけていけっつーの。
そう思いながらミナはサッカー台に置きっぱなしにされているカゴをそれぞれの台から集めてひとまとめに積み上げていた。
出入り口に近い台に近づくと、カゴの中に緑色のラベルが付いた500㎖のペットボトルが一つ入っているのが見えた。
はあ? ゴミまで捨てろってか? ったく。
舌打ちして近づくとそれは未開栓の緑茶だった。
あ、忘れ物か――って、こんな大きなもの普通忘れる? 超ウケるんですけど。
ミナは苦笑を浮かべ、カゴを整理し終わった後、それをサービスカウンターに持っていった。
「チーフゥ、忘れ物でーす」
「そこに置いといて」
年配の女性チーフは検品表や伝票などの書類とにらめっこしながら、ミナのほうを見もせず顎だけ動かした。
「はーい」
ペットボトルをカウンターに置くと、メモ用紙に『忘れ物』と書いて貼りつけた。
どうせ棚に戻すんでしょ。
そう思いながら、ミナはレジに戻った。
駐車場で忘れ物に気付き、すぐ戻って来た客の場合、サービスカウンターに届けられていたならチーフはそれを返す。
十分以上問い合わせのない場合、忘れ物はすべてそれぞれの陳列棚に戻される。
のちに客が戻ってきたり、電話で問い合わせがあったとしても、「忘れ物はなかった」で済ませてしまうのだ。
本店の方針か、ここの店長だけの考えか、チーフが勝手にやっているのか、くわしいところは知らないが、機嫌の悪いチーフに小言を言われた時など、SNSに暴露してやろうかと思うことがある。
実際はやらないけどね。正義振りかざすふりして憂さ晴らししてさ職を失うのやだし、もし店のズルがばれたとしてもわたしには関係ないし。
三十分後、サービスカウンターに行くとペットボトルはなかった。たぶん、いや確実に陳列棚に戻したのだろう。
ゴミ箱にはミナの書いたメモが丸めて捨ててあった。
スーパーで購入した緑茶を飲み、客が死亡する事件が発生した。
その緑茶には毒物が混入されていたという。
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