『おもいで』 1ねん1くみ 山田けいこ

『おもいで』

          1ねん1くみ  山田けいこ


 せんしゅうの日ようびにおかあさんとわたしとふたりで、おかあさんのともだちのいえへあそびにいきました。

 おかあさんのともだちは、やさしそうなおじさんでした。

 その人とあうのははじめてだったのですごくきんちょうしました。

 でも、わたしのためにイチゴのケーキをかってくれていたのでとてもうれしかったです。

 おかあさんとわたしとおじさんの三人でケーキをたべました。

 そのあと、おかあさんとおじさんはべつのへやにいきました。

 おかあさんはわたしにおとなしくまっていなさいと、やさしくいいました。

 わたしは「はい」といって、うなずきました。

 いうことをきかないとおかあさんにおこられるので、はじめはケーキをたべたへやでまっていましたが、だんだんとたいくつになってきました。

 おじさんとおかあさんが入ったへやにちかづくのはぜったいだめだとおもったので、はんたいにあるおふろばとトイレのあるほうへたんけんにいきました。

 トイレはすいせんトイレでした。ようしきで、うちとおなじだとおもいました。でも、うちのは、ほうこうざいのいいにおいがしますが、おじさんちのトイレはすごくへんなにおいがしました。それにすごくきたなかったです。

 はやくおかあさんのようじがすめばいいのにとおもいました。だって、もしおしっこにいきたくなったら、ここでおしっこするのがきもちわるかったからです。

 つぎは、おふろばを見にいきました。ガラスのとびらをあけると、トイレよりももっとへんなにおいがしました。やっぱり、おふろばもあまりきれいじゃなかったです。

 おゆをためるところにはふたがしまってありました。

 おかあさんはおゆをはったままにしておくのがきらいですぐすててしまうので、うちにはふたがありません。

 まえに、ゆうこちゃんのいえでかくれんぼしたとき、おゆをためるところに入って、ふたをしめてかくれました。ぜんぜん見つからなかったので、おふろのふたすげーっておもっていたので、わくわくしました。

 おふろばのゆかは、へんないろでよごれていました。中に入るとぬるぬるしてきもちわるかったのですが、ふたであそびたかったのでがまんしてそのまま入りました。

 そっとふたをあけると、「おえ」ってなるようなにおいがして、はえがいっぱい出てきました。

 びっくりしてふたをおとしそうになりましたが、なんとかささえました。大きなおとが出なくてよかったとおもいました。

 おゆをためるところに入って、ふたでやねをつくって、おうちごっこをしようとおもいました。でも、中をのぞくといっぱいかおが入っていました。

 大きなかおや小さなかおが、あかいようなくろいような水の中にういていました。

 大きなかおはおとなの女の人で、小さなかおはあかちゃんです。大きなかおは、きれいなおばさんだなとわかるものもありましたが、いくつかはよくわからないぐちゃぐちゃのかおになっていました。

 こめつぶみたいな虫がびっしりついていて、それがもぞもぞうごいているのでとてもきもちわるかったです。

 あかちゃんにも、虫がいっぱいついていました。ひとつひとつが男の子か女の子かわかりませんでした。

 ゆうこちゃんのいもうとみたいに、だっこするのがおもいあかちゃんではなく、こざるみたいな、小さな小さなあかちゃんだったのでせいべつがわからないのかなとおもいました。

 どれもこれも目と口がぬわれていました。なんだか、いたそうだなとおもいました。

 口はきっちりととじてぬわれているのに、目はすきまがあいて、糸のむこうに目玉が見えていました。ぜんぶの目にじっと見られているみたいで、ぜんしんがふるえてきました。はやくもとにもどして、へやにもどらないといけないとおもいました。

 音をたてないようにふたをしめて、おふろばから出ようとしたのですが、入口におじさんが立っていたのでびっくりしました。

 おじさんは目と口がぬわれたおかあさんのあたまをもっていました。

「なんで女っちゅうもんはけっこんしたがるかねぇ」

 おじさんはやさしいかおで、わたしにわらいかけました。

「ごていねいににんしんまでしくさって」

 なにをいっているのかわかりませんが、そういいながら、もう一つの手にもっていた小さな小さなあたまも見せてくれました。小さすぎたのか、それは目も口もぬっていませんでした。

「おまえはまだまだにんしんするような年じゃねえなぁ。てことは、なにやってもいいわけだ。よし、きょうからおまえはここにすめ」

 きょうからここにすめというところしかいみがわからなかったのですが、わたしはこわくてたまらなかったので「いやだ」となきました。

「でもなぁ、おまえのかあちゃんはもういないんだよ。おまえはひとりで生きていけないだろ。なあ」

 さいごの「なあ」が、ねっとりしていてきもちわるくて、わたしはよけいなきました。

 おじさんのかおがきゅうにこわくなって、おくのへやから見たこともないおおきなほうちょうをもってきたので、わたしは口をおさえてなきやみました。そうしないとくびをきられ、目と口をぬわれるとおもったからです。

 そういうわけで、わたしはいまおじさんのいえから学校にかよっています。

 おじさんはわたしがおとなしくしていると、ほうちょうをもってくるこわい人にならないので、どんなにいたくても、きもちわるくても、じっとしています。どうしてもなきたいときはこえを出さずになくようにしています。

 でも、もし、わたしがにんしんしたら、おかあさんのようになってしまうのでしょうか。

 にんしんはおとなにならないとしません。

 わたしはおとなになりたくないです。  

                  おわり


          ***


 先生より

 たいへんよくかけてます◎

 けいこちゃんのそうぞうりょくとぶんがすごくじょうずなのがよくつたわりました。

 でも、先生は『おもいで』というタイトルで、さくぶんをかいてほしかったです。

 さくぶんとおはなしづくりはまたべつのものなのですよ。こんどからはきをつけてくださいね。

 ところでとてもじょうずだとおもうのですが、先生はこんなこわいおはなしをそうぞうするけいこちゃんのこころがとてもしんぱいになりました。いちどおかあさんとおはなししようとおもうのですが、でんわをしてもれんらくがとれません。

 それで、こんどかていほうもんしようとおもいますので、おかあさんにそうつたえておいてください。



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