第13話 絡まる小指、離れる環指

 ナナミに裏アカウントを見てしまったと素直に告げると、彼女はもう関係を続けていくのは無理だと嘆いた。そんな彼女に僕は、むしろ嬉しかったのだと伝える。

 当然、陰で罵られていたことが、ではない。表面上の綺麗ごとでない、言葉でどんなに尋ねても決してひらいては見せてくれない、そんな彼女の本根に触れられたことへの悦びのほうが、自身に生じた感傷を遥かに上回っていたのだ。

 彼女は僕のことをはじめこそ怪訝そうな表情で眺めていたものの、やがては僕の提案を受け入れて、これからも恋人同士という関係を壊さないでいてくれると約束してくれた。


 それからの僕らは、それまでよりも一層にお互いの恥部をさらけ出していった。

 性癖も、嫌悪する対象のことも、過去の恋愛から家族のプライバシーまで、包み隠さずすべて。そうすることで、より二人きりの世界が深まっていくように感じられた。互いだけを見つめ、そこにいると落ち着くような。けれど、そこにいないと落ち着かないような。


 やがて、二人が大学を卒業して社会人になるとともに、僕らは同棲を始めることにした。


 本当に幸せな、はずだった。

 なのに、

 なぜか、

 彼女との関係が深くなればなるほど、

 僕はじりじりと彼女を失うことへの恐怖に支配されて、

 疑心暗鬼になっていってしまった。


 それは今まで交際相手の陰で自らがしてきたことを、彼女が自分にもしているのではないかという不安でもあった。

 過去に傷つけてきた恋人たちへの罪が、心から大切だと思える人と出逢えたそのときになってようやく、ずしりと背中にのしかかってきたのだろう。

 僕は彼女を信じ切ることができず、かつてサトコに犯してしまったような束縛とともに彼女の愛情を試すような行為を繰り返すようになっていってしまっていた。


 お互いを強く想い合っていたはずの関係が、いつの間にか、お互いを傷つけあうだけの関係へと姿を変えていくのを肌で感じながら、最後には互いに疲れ果て、それでもしがみつこうとする僕を、彼女は正しくも感情的に突き放して終わった。


 残ったのは、結婚まで夢見た男女の借りた広いマンションの一室に、もはや何も信じられなくなった悲劇のヒロイン気取りの女々しい男がただ一人。何をするでもなく、呆けているだけだった。

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