第12話 ぐるーびぃーぺにー

 ナナミと交際がはじまってから程なくして、彼女は自身が同人作家であることを、僕に告げた。ジャンルはボーイズラブ。

 はじめは隠し通すつもりだったが、原稿のためのスケジュール確保や自宅に恋人をあげるにあたって、観念したらしい。

 彼女のペンネームで検索をかけるといくつかの作品がひっかかり、その界隈ではわりと有名なようだった。イラストを頼まれたスケッチブックが、机の脇で崩れんばかりに山積みになっているのもよく目にした。


 そのこと自体には、思いの外、大きな衝撃はなかった。それよりも興味を引いたのは、彼女自身が持つホームページサイトだった。

 そこで見られたファンとの交流の中で、どうやら彼女は裏アカウントを持っているらしいことがわかったからだ。


 僕はその裏アカウントを見つけることに執心した。

 上っ面なんていらない。どんな浅はかな裏側がそこに潜んでいるのか見てやりたくなった。

 がっかりしたい。その一心で探り当て、鍵を抜けて、覗き込むことに成功した。


 そこに書いてあったのは、罵詈雑言。

 普段の彼女から想像もできないような、汚い言葉が並べられていて、ここ数日はもっぱら僕に対する誹謗中傷が書かれていた。

 僕の発した言葉ひとつから、性行為に対する不満まで。


 それは、どこにでもありふれた愚痴などではなく、

 長文にわたってひどく攻撃的だけれど、飾らずに読みやすく、

 とことんまでに生々しく具体的だけれど、引き込まれてしまうような文章だった。


 僕は、それを目の当たりにして、

 今までないほどの感動を覚えていた。

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