第10話 作り笑いのミトコンドリア
四半期毎に帰国してくる母から生活態度を監視されるようになり、恋人とあまり戯れることができなくなってきた頃、僕は受験生になっていた。
サトコについて、その頃から尊敬していたことは、その将来へのビジョンが全くブレないことだった。
僕は元々、県外に出ることしか頭になく、彼女も出会った頃から、憧れだった県内にある大学に進学することしか考えていなかった。
つまり、僕らが離ればなれになることは、付き合い当初から決まっていたのだ。
それでも、僕らは将来を語らった。
遠距離から同棲するまでの物語を話し、子どもの名前まで決めているような彼女の突き抜けた発想に笑いながらも、それを心地良く感じるようになっていた。
かくして、僕は東京にある大学へ進学が決まり、遠距離恋愛が始まることになる。良くあるような、新幹線のホームでの涙の見送りシーンなんてのも経験して。
自分は楽だった。
受験やらで精神的に疲れたとき、彼女がすぐ側で支えてくれていたから。上京も自ら望んだもので、はじめは孤独を感じつつも、様々な出会いがあり、新たな環境が押し寄せ、新しい生活に追われ、刺激を受ける日々が待っていた。
だけど、彼女は違う。
彼女の生活からは、僕だけがいなくなり、
その後の彼女は、自らの夢と一人で戦わなければならなくなった。
彼女を孤独にさせたのも、彼女を縛り付けていたのも、自分だったのではないかと、そう思ってしまうほど、彼女は病んでいった。
距離とは反比例するように、相手を想う気持ちは強くなった。けれどその分、すれ違いの音が大きくなっていったのも、間違いなかった。
遠距離恋愛の頃も、月に一度は会いに行っていた。
束縛癖がついたのは、この頃からだろうか。
相手を繋ぎとめるために、わざと突き放し、責め立てることも厭わなくなっていた。
それでも彼女は、従いついてきた。
それでも僕は、満足することはなかった。
冷たくあしらい、罵倒して、非道い仕打ちをしても、それでも、彼女がしがみ付いてくるのか、試したくなった。
本当に下劣で最低な存在だ。
相手の好意を利用して、寂しさを埋めておいて、縛りつけては傷つけて。どこまで許されるのか。どこまででも許されてほしいと。
それは、「願い」であるかのように見せかけた「エゴイズム」で。
依存して、依存させて、依存しつくして。
けれど、それも相手を想っての「愛情」ではない。ただ自らの愛欲を満たすがための「ナルシシズム」でしかない。
サトコは見識高く、感受性の豊かな人だった。だから、彼女も二人の関係が良くないと感じていたのは、間違いなかった。
けれど、どうすることもできず、深く思い悩んだのだろう。彼女の腕の傷を見ても、僕はどうすることもできないでいた。
本当に、最低で最低で最低で、最低であって、最低でしかない。
最終的に、彼女が言った。
「他に好きな人ができた。その人はあなたとは違って、私を大切にしてくれる」
その相手について尋ねても、その存在がとても曖昧で、そして、すぐまた連絡がきた。
「フラれた」と。
僕らはお互いに全てを悟って、その日のうちに別れた。
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