第8話 君の犬歯は砂糖菓子

 サトコは結局、同級生からの告白を断って、僕のもとに来た。断られた男子から逆恨みされそうだと憂慮したけれど、その後その男子と関わることも、嫌な思いをすることもなかった。


 サトコは育ちの良いお嬢様で、ご両親はそこそこ厳しく、門限もあったため、あまり遅くまでは拘束できない。彼女は部活と塾に通っていたので、デートも休日メインになることが多かった。そもそもデートなどほとんどせず、交際から一か月も経たないうちに、僕は彼女を自室に引き入れて、「俺も初めてだから」と身体を重ねた。

 そういう方法でしか、寂しさを埋める方法も、繋がり方もわからなくなっていた。


 お菓子作りが得意だった彼女は、様々なお菓子を作ってきてくれては、それを二人で食べたりした。

 それは、どちらかと言えば内に籠って過ごすことが多かった中での、彼女なりのデートへの工夫だったのかもしれない。


 お互いの家は、学校を中心に真逆の方向に位置していて、同じ高校だったとはいえ、決して近いと言える距離ではなかった。

 それでもケンカをしたときなど、彼女は手作りのお菓子を持参して、僕の家まで仲直りをしに来てくれた。

 そうやって僕は彼女を、だんだんと可愛らしく思うようになっていった。餌付けされたようなものかもしれない。


 彼女自身が甘いもの好きなこともあって、よくスイーツを食べに行ったりもした。当時流行りのハニートーストを二人でつついて、一緒に感動したりしていたのは、今でも温かくて楽しい思い出の一つだ。

 彼女の作るお菓子は、失敗してちょっぴり苦いこともあったけれど、僕の胃袋には程よい甘さで、染み込んでいった。

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