第7話 サトコ

 いつになぜ好かれたのかはわからないが、会話の端々で好意が漏れ出て、何度か僕に気持ちを伝えてしまっているような後輩の女の子がいた。

 名前はサトコといって、同じ文化系の部活に所属していた。

 親しくしてくれる先輩という存在が、何かのふしに彼女の好奇心とマッチしてしまったのだろう。


 僕は彼女の好意を受け流したりしていたが、はっきり「応えられない」と伝えたこともある。

 そう断った後は、少し大人しくなっていたものの、それでも彼女はめげることなく、僕に連絡をくれていた。


 他に好きな人がいると勘違いしていたのか、よく「もし、○○さんとダメになっても、私がいますからね」と言っていた。


 そんな彼女の好意を、まっ白な気持ちを、僕は知っていながら、最低最悪にも、それを利用しようと思った。ただただ、マイさんを失った寂しさを埋めるためだけに。

 そのとき、彼女が同級生から告白を受け、悩んだ末、OKしてみようかと考えていたことも、知っていて。


 僕は、彼女をデートに誘った。

「気になる子に誕生日プレゼントを渡したいんだけど、何が良いかわからないから、選ぶのに付き合ってほしい」


 そんな感じの誘い文句だったと思う。

「気になる子」なんて、本当はいないのに。

「そのプレゼントは 私宛ですか?」とおどけた彼女に「違うよ」とだけ冷たく返す。


 待ち合わせて買い物に出かけると、案の定、その「気になる子」について、根掘り葉掘り聞かれたが、僕は「A子さん」なる空想の人物を作り上げて、嘘をつきまくってやり過ごした。


「A子さんは、君と趣味が似ているみたいだから、君が貰って嬉しいものを、直感で選んでほしいんだ」とか、そんなことを言った気がする。


 そうして無事に買い物を済ませ、締めにプリクラを撮ることになったとき、プリクラ機のカーテンの中で、彼女が写真を選んでいるところで肩を叩いて、その振り向きざま、前触れなく彼女にキスをした。


 彼女は両目を見開き、えっ?えっ?えー!と、九官鳥のように何度も繰り返していた。

 そして、彼女の選んだプレゼントを、そのまま彼女に手渡して「ごめん、嘘をついてた」と「A子さん」が存在しないことを告白し、

「君が他の男のところにいくと思うと、我慢できなくて、好きだと気づいた」と、また嘘をついた。


 もし失敗しても、元々何とも思っていないから傷つかないとか、本当に最低なことを考えていた。


 彼女は驚きを隠せずに、しばらく混乱していたけれど、

「どうするの?」と尋ねると「よろしくお願いします」と、はにかみながら答えてくれた。

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