第6話 昨日の夕ご飯

 

 昨日の夕食は楽しかった。大きなテーブルに、美貴、フィアンセ、フィアンセの妹、フィアンセの妹の旦那さん、それからその子供。。。子供は女の子が二人、7歳と3歳。。。。それと、お父さん、お母さん、隣に住むおじいちゃん、おばあちゃん。指を折って数えてみた。10人。。。


 保は、意味もなくぶるっと震えた。外国人の子って。。。めちゃめちゃ可愛いのな。


 7歳の子の方は、リュリュと言った。本名なのかは知らないが、とにかくみんな、そう呼んでいる。真っ白な顔に、瞳がブルー。歯並びがすっごく綺麗。3歳の子はミアと言った。天使がいるならこんな感じなのか?というような、透けるようなくるくるの金髪だった。リュリュの瞳よりもさらに、透明みたいなブルーだ。驚く。リュリュは長い髪を後ろで束ねていて、これも金髪なのだけれど、子供なのに、はらっと顔に無造作にかかる前髪を少し傾げて喋るのがまるで大人みたいだった。すっきりしたジーンズの後ろ姿に思わず見とれたことは、誰にもバレてない。外国人って足が長い。


 保は、ちゃんとお手伝いするべく、リュリュと一緒に食べ終わった後のお皿を下げて台所に行った。その時たまたま後ろ姿を見た……


「まあ、保ちゃん、そんなのいいのよ、長いフライトで疲れてるでしょ……』


 食べきれなかった大きな肉料理のプレートを持ったまま、美貴はそう言った。日本のハンバーグとものすごく似てる料理。わざわざ保のために、できるだけ日本料理に似た郷土料理を、と、美貴がリクエストして一緒につくったらしかった。


 ハンバーグのような肉料理の側に添えられていたのは、クスクスという料理らしい。ぽろぽろと乾いていて、味だが、なんと形容したらいいのか、日本で言うところのご飯の代わりなのだろうが。どうやら、暑い国でよく食べられているような料理らしかった。肉料理のトマトソースに和えて食べる。薬のようなスパイスの味は、バジルやオレガノ、ハーブドプロバンス、というらしかった。イタリア料理に似ているのは、確かにイタリアが近いせいかもしれない。


 サラダのボールはあまりに大きいので驚いた。保の家にあんな大きボールはない。まるで。。。大きなか?それは大げさかもしれないが、それくらい大きい。そして木でできた大きなスプーンとフォークでザクザク混ぜてから、取り分けた。なんか知らないけどオシャレじゃないか。


 保は、しまった、写真撮りたかったな、と考えた。夏休みの宿題。。。絵日記のネタに、ちょうどいいかもしれない。すっかり忘れてた。。。料理の作り方とルーツを聞こう。保が驚いたのは、一個一個、全て順番に料理が出てくるところだった。日本みたいに、全ての料理が食卓に並ぶわけじゃなくて。スープは冷たいポテトのビシソワーズで、リッチなクリームはさすが本場だ。日本とはコクが違う。ぱらりと乗せられた小口切りの浅葱。


 サラダの中身は、レタスと。。。美希が教えてくれたが、ルッコラだった。からし菜科の野菜で、日本では食べたことがない。ツナに、パセリに、オリーブ、トマトにガーリックのみじん切り。。。あと、わけのわからない白い。。。アスパラじゃないな、なんだろうあれは?というものが入ってた。


 保はオリーブがあまり好きでない。あんなものは塩辛い酒飲みの酒のアテなんじゃないか。すっぱくはないけど、長く瓶に入ってたみたいな変な味で。


 でも、日本で父親が飲んでるウィスキーのアテとして摘んだことがあるオリーブとは何かが確かに違う気がした。もっと新鮮?なんだろう。。。何が違うのか?


 昨日のは、種が入ってたな、うん。日本でラベルが貼られて売ってるものよりも、不思議にフレッシュな気がした。


 デザートは、大きなレモンのタルト。保はレモンが嫌いだったが、好きになった。レモンってこんなに美味しいものなのか?


 保は首をひねった。サクサクしたタルト生地に、シンプルにレモン、シュガー。。。それだけなのか?いくらでも食べられる。ケーキと言えば、クリームや苺。。。保の知ってるデザートに比べ、手作りはこんなにシンプルで美味しいのか、と驚く。保の母が、買ってくるケーキ屋さんのケーキは、確かに凝っていてプロらしく美味しいものばかりだったが、むしろ。。。保は、もっとナチュラルな家庭料理に惹かれた。


 昨日はリュリュが作ったムース・オ・ショコラもグラスに入って出てきた。わざわざ日本から来てくれた保のために、作ってくれたらしかった。ちょこんと一つだけ飾ってあるラズベリーが可愛らしい。保は頭を掻いた。しまった、まだスーツケースを開けてない。。。。


 ちゃんと、こちらの家族の人にお土産を買ってきたというのに。先回りして、家族構成を聞いておいた抜かりのない自分としたことが。


 こういう時に、さっと出さないと意味ないじゃんかよ!!保は心の中で、つぶやいた。おいしいです、と言いたかったのに、何度も言おうとしたのに、結局、言えなくて、保は言葉の壁の前に悔しいばかりだった。美貴が訳してくれるのだが、保は、それくらい自分の口から言いたかったのだ。

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