第3話 空港からの道のり〜回想
美貴はとにかくよく喋った。この人が未来の旦那様なの!紹介された青年は、なかなかの美形で、見上げるような大男で、鍛えてそうながっしりとした体つきをしていた。彼はハジメマシテ、とぎこちなく言った。笑顔なんだが、微妙に距離を感じる。変な日本語のせいか。
なんだ、日本語が喋れるのか?と保がホッとしたのもつかの間、実はその程度しか日本語を知らないらしかった。後は、黙りこくった。保のスーツケースを軽々とトランクに入れ、なんとなく保は負けたような気分になった。
美貴は、運転している青年の右手に手を添え、時々そっと後部座席に保がいるにもかかわらず、甘えたようにふわりと青年に寄り掛かろうとする。ラブラブな空気。後部座席に自分が乗っていることを忘れて欲しくない。
ギアチェンジの邪魔だろうがよ。。。
保は、やってられない気分になり、窓の外を見た。
母親の声を思い出した。
あなた美貴お姉ちゃんと仲良かったでしょ?もうあんまり会えなくなるかもね。。。外国の人のところへお嫁に行くことにしたんだって。
美貴お姉ちゃんはお母さんの従姉妹だが、お母さんよりもずっと若く、おばさんと呼ばないで、と笑ったが、それは当たり前だろう。高校生。美貴お姉ちゃんと一緒にいると、保は踊るような気持ちを抑えられなかった。子供用のピアノの鍵盤を叩くお姉ちゃん。まるで魔法のように、変調して、お姉ちゃんすごい!と自分らしくない声をあげ、保は尊敬の目でお姉ちゃんを見た。
音楽留学であっという間に、遠い人になって。
保は、二人乗りしているバイクを見て、あぶねーぞ、と思わず呟いた。かろうじてヘルメットはかぶっているけれど、後ろの女性は、素足にビーチサンダルだ。万が一、事故ったら。
南国の日差しは落ち、涼しい風が吹き始めていた。どこに太陽が落ちていったのか、保は右手にある海岸線から、あっちの方か?と名残を探した。キラキラと光が、飛ぶように保の車の横を流れていく。波の音が聞こえ、バイクの二人乗りは左手に消えていったものの、水着姿で犬の散歩する人、ジョギングする人、まるで映画のように、夕方の海岸線はカタカタといつか見た古いフィルムの映画のようだった。
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