サユーともんたんと弁当と……

「う、うぅ……眠ぅ……」

 左右は目を擦りながらも、必死で起き上がり、カーテンを開ける。

 時刻は午前五時十五分。朝だ。

 彼が寝入ったのは午前四時前後。実質一時間と少ししか寝ていない。

 中途半端に寝てしまったが為に、余計に眠気が襲い掛かって来てかつてない程の怠さが全身を襲ってくる。

 しかし、それでも左右は起きるしかなかった。

 何故なら、虎子の朝食と弁当を作り忘れてしまったからだ。

 それを思い出したのはつい先程。何気なく起きて来たもんたんがその事実に気付き、急いで左右を起こして事を文章で告げた次第だ。

 昨日は夜勤を終えた後親友の辰博と宅飲みをし、積もる話もして解散したのが午前三時半。着替えだけを済ませて眠気に負け、そのままバタンキュ~と寝てしまったのだった。

 半分も覚醒していない頭でも頑張って稼働をさせ、ふらふらと頼りなさ過ぎる足取りできっちんへと向かう左右。そんな彼が躓いたり壁に頭をぶつけないようにもんたんが必死でフォローをする。

 キッチンに立った左右はまず冷蔵庫から食材を取り出していく。卵に人参、キャベツにスーパーで特売だったベーコン等々。ふらふらして意識が半分以上覚醒していなくてもブラックバスやウシガエルなどは決して選ばない。

 もっとも、それらは冷凍庫にて冷凍保存されているので、そちらを開けなければ混入する事はないが。

 まずは弁当を作らねばと卵を割ってボウルに入れ、砂糖と一緒に解きほぐしていく。その際に火をつけたコンロに乗せた小型のフライパンに薄く油を引き、全体に行き渡るようにキッチンペーパーで拭くように伸ばす。

 黄身と白身、そして砂糖が完全に一体化したのを確認すると、それを一気にフライパンにぶちまける。何時もならはねないように少しゆっくり目に注ぐが、そこまで配慮する意識が無かった。

 幸い、油も卵もそこまで跳ねず、調理後の掃除は楽な状態だ。片面が焼けたら丸めず、フライ返しで全体をひっくり返す。そちらも焼きあがったらフライパンを火からおろして脇に寄せる。フライパンの余熱で中までしっかりと焼く為に卵は乗せたままだ。

 平たい卵焼きが出来た後は、適当に玉ねぎと人参、マッシュルームを細かく刻み、ベーコンもザクザクと切っていく。それらをひとまとめにして少し大きめのフライパンに投入。そして火をつける。油は引かない。ベーコンから程よく油が滲み出るからだ。

 それらを炒め、時折バジルやらオレガノやらを振り掛け、事前にタイマーセットをしておいた炊飯器から炊き立てのご飯を適当に投入。炒めていた具材と共に更に熱を通し、塩を少し振り掛ける。

 その後、ケチャップをドバっと掛けて混ぜ合わせ、完成。それを虎子の弁当箱にぶち込み、粗熱が取れるまで待つ。その間に緑黄色野菜が足りないからと筋を取ったスナップエンドウとブロッコリーを茹でて、それらを脇に添える。

 あとは甘味が足りないなと言う事で林檎を取り出し、うさぎさんとライオンカットしたものを砂糖水に浸ける。痛まないようにするには塩につけるのが一般的だが、虎子はしょっぱい林檎が苦手な為、代わりに砂糖水に浸したものを弁当に添えている。

 今回の弁当はオムライス。卵はライス部分の粗熱が取れてから上に掛けないと蒸れてしまうので、もう暫し待たねばならない。

 さて、次は朝食だ。と左右は閉じて来た瞼のまま次なる作業へと取り掛かる。

 人参をいちょう切りにして水の張った鍋に投入し、着火。沸騰したらざく切りにしたキャベツを投入。芯は人参と一緒に入れておけばよかったと後悔するが、時すでに遅し。

 そこに顆粒の出汁を投入し、味噌を溶きながら全体に行き渡らせれば味噌汁の完成。

 油を引いたフライパンに卵を投入して半熟の目玉焼きに。

 洗った法蓮草を茹でて、きちんと水を切って等分にカットしたものに胡麻を和える。

 肉が足りないと言う事で鳥の挽肉で鳥そぼろを作る。味付けは醤油に砂糖、生姜だ。因みにこの砂糖は林檎をつけていた砂糖水を少量使用している。なので、微かに林檎の風味も漂っていたりする。

 林檎も充分と判断し、砂糖水をきちんと切ってから小型のタッパーに入れる。

 六時を少し回る頃には全ての作業が終わり、虎子が起き出してくる前に事を成す事が出来た。因みに、全工程でもんたんが人型となって二人羽織……と言うか操り人形の如く層の動き自体をサポートしていたりする。

 ただ、まだ弁当から粗熱が取れていなかったので、『出掛ける時に焼いた卵を乗せていってね』と近くに書置きを残し、ふらふらと左右はリビングに戻って布団へと倒れ込む。

 ものの数秒で意識が夢の世界へと旅立ち、左右は深い眠りにつく。

【お疲れ様です】

 と、もんたんはすやすやと眠っている左右の身体が冷えぬようにと、自らの身体を布団のようにしてかける。

 そして、暫しの時間が経ち。

「ん……ふぁう」

 左右は眠りから覚める時計を見て時刻を確認すれば、既に午後四時を回っているではないか。

 本来なら遅刻確定な時間だが、本日は休館日。つまり、彼にとっての休日なのだ。なので、目覚まし用のスマートフォンのアラームはセットせずに想いのまま寝ていたのだ。

 時刻が時刻なので、もんたんは身体を清める為に浴室にいる。

「さてっと、まず飯食べよう」

 左右は軽く伸びをしてキッチンへと向かう。

 と、その時チャイムが鳴る。

 誰だろう? と思いながら左右は行く先をキッチンから玄関へと変更する。

 玄関の扉を開ければ、そこには妖怪が一匹。と言うよりも、地蔵が一体。

『あの、ちょっとお願いしたい事があるんですけど……』

 その地蔵はおずおずと遠慮がちに左右を見ながらそんな事を口にする。因みに、口は動いていないし、表情も全く変わらない。

「あー、はい。分かった。まず中に入って詳しい内容聞かせて貰えるかな?」

『すみません……』

 左右は地蔵を家に招き入れ、内容を訊いた上で地蔵の頼み事を聞き入れる。

 そして、その日の夜。もんたんと一緒に解決をする為に少しばかり遠くへ行く事となる。








 霊感を持つ青年裃左右と妖怪一反木綿のもんたん。

 彼等の日常は、決して普通とは言えないだろう。

 しかし、彼等にとってはそれが当たり前となっている。

 幽霊や妖怪と懇意にし、互いに持ちつ持たれずの関係を築いてる。

 今日もまた、彼等は普通とは言えない日常を過ごしていくのだろう。



 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サユーともんたんの怪奇録 島地 雷夢 @shimazi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ