第11話 自己完結ヒーロー
私は一端のヒーローであるから、もちろん超能力を持っている。
私が活動するA市には多くの巨悪が潜んでおり、宝石を盗むだとか、子供を誘拐するだとか、銀行を占拠するだとか、色々な犯罪がはびこっている。
そんなところに私は颯爽と現れ、巨悪と死闘を繰り広げる。巨悪との実力はほぼ互角、いつもぎりぎりの戦いだ。周りで見ている市民達も、今回こそは負けてしまうのではないか、と心配な気持ちを持つこともあっただろう。でも大丈夫、私はヒーロー。今までどんな戦いも、最後の最後には勝利してきた。市民達はそんな私の姿を見ていつも感謝の言葉を投げかけてくれる。その言葉を胸に、私はまた頑張れるのだ。
ここで一度、ヒーローの"定義"について私の考えを聞いてほしい。
ヒーローとは、巨悪に立ち向かい、どんなことがあっても最後には打ち勝ち、笑って皆を助けるかっこいい存在だと思っている。幼いころにテレビで何度も見た姿だ。A市にはびこる巨悪をバッタバッタと倒していくヒーローの姿を見て、強い憧れを持ったものだ。それから修業を積み、ヒーローとなるために憧れのA市にやってきたのはもう5年前になるだろうか。
そう、かつての私はそのようなかっこいいヒーローの姿を夢見てこの都市へやってきた。ただ、当時のA市は、幼いころに夢見た状況とは大きく異なっていた。法と警察がしっかりと機能し、すっぽりと平和に包まれていたのだ。「力」でねじ伏せられるような単純な問題は皆無に等しく、「法」や「秩序」といった形のない武装で確実に、堅実に、悪を諭すことこそが正義となっていた。
私は、悪に「力」を持って立ち向かうヒーローになりたかった。しかしあきらめない。私だって一端のヒーロー、持ち前の超能力を使う時が来た・・・。
そうして私はある時から、A市の新たな巨悪として活動を始めた。宝石を盗み、子供を誘拐し、銀行を占拠する。
そして同時に私は、A市の新たなヒーローとして活動を始めた。無数に表れ始めた巨悪と戦うためだ。
矛盾しているように感じるだろう、しかし問題はない。修行の結果私が身に着けた超能力は「分身」。そう、私自身の手で理想のヒーロー像を作り上げたのだ。
私に悪の心はまったくない。正義の活躍を見せるためには悪が必要不可欠なのだ。「力」がなければ悪に打ち勝つカタルシスを皆に見せることができない。私はそう信じている。
そして今日も、正義のために悪を生み出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます