第20話

 町のゾンビたちは幸いにして、親玉と共に統率を失ったようではあった。

 燃え盛る教会を後にしたハーリットたちは、散り散りになったゾンビの隙間を縫って南の街道に出ることができた。

 夜は白々と明けようとしている。雲も少しずつ薄れ、今では東の空の端に光が差し込み、世界中を朝の群青色に染め上げていた。

「火災はそれほど大きくならないはずだ。……少なくとも、街道まで焼き尽くすほどにはな」

 アルフレドはゆっくりと歩きながら、そう言ってきた。隣をゆく少年、ハーリットも煤けた頬を拭いながら頷く。

「これで少なくとも……被害は拡大しなくなった、ってことですね」

「そうだな。残された死者たちはそれでも町を徘徊し続けるだろうが……それを弔うのは、我々の仕事かもしれない。キミに全てを押し付けるのは間違いだろう」

「…………」

 無言を返しながら、ハーリットは俯いた。

 町の人々については、どういった言葉を用いるべきかもわからない。無念だと簡単に嘆くのも、間違っているような気がしてしまう。

 そうした心中を察するように、アルフレドは話を変えてきた。吐息して、考え込むように。

「しかし、疑問が残ったな」

「疑問?」

「あのミゴペインという女冒険者の口振りでは、恐らく彼女らが魔物を使役し、町を襲ったのだろう。ネクロゴートを用いて少しずつ町民をゾンビ化させていったのかもしれない。いずれにせよ――」

 研究者はそこで言葉を区切ると、「ぞっとしない話だが」と前置きしてから続けた。

「それほどの力があるのなら、他の町でも同じことができたはずだ。それなのになぜ、この町でだけそんなことをしたんだ?」

「確かに……そうですね」

 ハーリットは頷き、研究者と共に考え込んだ。

 他の町ではできない理由があったということだろうが、それはなんなのか――エンダストリは特別な土地ではない。ミゴペインの様子から見ても、ここにしかない何かがあった、とも考えにくいだろう。

 ならば事を大きくしたくなかったのか。王国軍、あるいは領の討伐隊が編成されたら勝ち目がないから? だが本当に魔物を使役するのなら勝算はあるのではないか? その言葉は嘘、あるいは大袈裟に言っただけなのか? それとも――

(グアデンの町で、あの女は『余興』だと言っていた。野望のための余興に過ぎない、と)

 まさかこれが野望ということはないだろう。だとしたらこれも、余興のひとつではないのか。

 彼女らにはもっと別の、さらなる目的があったのではないか?

(……結局、その目的はわからない。あの女から聞き出さない限りは)

 あの火事で死んだとは思えない。そして恐らく……また悪質な出会いをすることになるだろう。

 ハーリットはそう確信していた――『屍旅団』とは戦う運命にあるのだと。

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