屋根裏部屋の小説家
鈴代なずな
第1話
■1
冒険者――元々は単なる旅人だったらしい。
見聞を広めるなり、秘宝を探すなり、それぞれの目的で世界各地を放浪する人々。
彼らが人々の依頼を代行する、なんでも屋のようになったのはいつからか。
わからないが、少年――ハーリット・ヘレディは今日もそんな人々の依頼を受け、その町の自警団詰め所を訪ねることになった。
黄金色の短い髪が潮風にそよぐ。灼熱色をした瞳と、強い意志のこもる凛とした端整な顔立ちは、彼を十四歳という年齢から遠ざけていた。小柄だが俊敏な筋力を予感させる体躯は、黒い厚手のズボンと、深い青色のインナーに隠されている。申し訳程度の胸鎧が、多少胸板を厚く見せるかもしれない。
ハーリットは目の前に建つ詰め所を見上げた。
白を基調とした、平坦な屋根を持つ石造りの建物。壁に大きく三角形をふたつ組み合わせたような黒いラインが引かれているのは、この自警団の紋様か何かだろうか。それ以外に飾り気はない。
「質実剛健、というより単に小さな箱っぽいな」
そう評しながら、ハーリットは木製のドアを押し開ける。町民が駆け込めるよう、鍵は掛かっていない。
「あのー」
「てめえ、どういうことだ! 時間も守れねえのか!」
どう話を切り出せばいいかと迷いながら中に入ると、出迎えたのはそんな男の中年めいた怒鳴り声だった。
一瞬身を縮こまらせたハーリットだが……どうやらその言葉は、彼に向けたものではないらしい。すぐさま反論する、別の男の怒鳴り声が響いてくる。
「うるせえ! お前だって似たようなもんだろ!」
「一緒にすんじゃねえ!」
「えぇと……」
最後は、ハーリットの発した呟きである。言い争っているのは目の前の男、若者と、それよりは歳のいった男のふたりだった。ドアをくぐった先にある広間で、木製のテーブルを挟んで叫び合っている。同じ服を着ているあたり、自警団の団員なのだろうが――
「あぁ、すまない。何か用かね?」
穏和に努める口調で、いがみ合うふたりを覆い隠すように、別の誰かが目の前に立ちはだかる。その男もやはり自警団のものらしい、外観の壁と同じデザインの服を着込んでいた。
彼はハーリットよりも頭ひとつ以上大きく、見上げなければならなかった。五十を超えたほどの年齢だろう。威厳のある顔立ちだが、どこか疲弊した様子がそれを打ち消している。白髪の多い角刈りも、気苦労を感じさせた。
と観察していると、それを困窮の沈黙と受け取ったのだろう。男は軽く目を伏せて礼をしながら言ってきた。
「失敬。私はこの自警団の団長を務めている、トイル・ペインズだ。後ろのふたりは団員だが、気にしないでくれ。まあ……色々とあるものでな」
彼――トイルは苦笑して、肩をすくめた。やはり気苦労が絶えない様子だが、それでも来客用に、重厚感のある声を精一杯和らげながら続ける。
「貴殿は見たところ冒険者のようだが、何か困り事でも?」
「っあ、いえ、えぇとですね」
問いかけられて、ハーリットはようやくハッとして顔の前で手を振った。そうしてから咳払いをひとつして、気を取り直すと――子供っぽさを消した真剣な声音を作り、告げる。
「実は町の人々から、ある『噂』の真相を突き止めてほしいと依頼されまして」
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