ミシロいんたーふぇいす(仮)〜5:結論。消える夢〜


 あれから、数日経った。

 あの日から、俺と加奈子の間にはギクシャクした空気が流れていた。食事も、加奈子と食べてない。会う時間がめっきり減った。


「……コータロー、キスして」

「ほれ」

「んっ。……それ、指」


 変わらないのは、ただ時間が過ぎていくのと、ミシロと遊ぶことくらい。

 とくに生活に支障はない。見えないところで加奈子は家事をこなしてくれている。見える範囲で加奈子が欠けただけ。そう、問題はない。ない。


「コータロー、加奈子のこと考えてるな」

「……そんなことないぞ」

「あるな」


 そもそも、こんな状況に陥れたのは、ミシロじゃないか。……いや、やめよう。そんなこと言ってもなにも解決しない。


「コータロー」

「なんだ」

「加奈子と、くっつけばいい」


 そう、平然と言いのけた。


「……おまえなぁ」

「?」

「加奈子と俺は家族だぞ? 兄妹なんだ。ずっと一緒にいたのに、いきなりそんな目で見れるか」

「好きって制限されるものか? 私だって、データだけどコータローの嫁だぞ?」

「そりゃまぁ、そうだが。だがそれとこれとは」

「好きっていうのは、理論や数字じゃない。お互いの気持ちだ」


 そう自信満々に言い放った。……どっかで聞いたことあるな。


「それ、いつだかのドラマのセリフだよな」

「私はこの言葉に感銘をうけたっ」


 ぐっと拳を作って力説してる。


「コータローはどうなんだ?」

「なにが?」

「カナコのこと」

「加奈子は俺の妹で」

「そうじゃない。好きなのか、嫌いなのかだ。ーーまて、私が当ててやろう」

「いいよべつに」

「まずは嫌いの可能性。これはゼロに近い。嫌いだったら、あんなに仲良くないはずだ」

「……」

「次に、普通の可能性。これも確率は低い。そもそも、カナコに対して、いわゆる『兄妹愛』からなるものならば、コータローがここまで悩むはずはない。もっとラフになれるはずだ」

「あくまでそれはコンピュータの予想だ。生身の人間は、予期せぬ出来事で簡単に感情が揺らぐからな」

「そうかもしれない。しかし、これを計算してるのが、『感情のあるプログラム』なら、信憑性も出てくるだろう? そして、最後の可能性だがーー」

「言うな!」


 たまらず、俺はミシロの言葉を遮った。

 この先の言葉を聞いてしまったら、もう後戻りできないところに足をつっこむことになる。そう漠然と感じていた。


「……コータローの気持ちは察した」

「っ!」

「やっぱり、加奈子のことが好きなんだな」


 ……ああ、言われてしまった。

 ずっと知らないフリをして、すれ違ったまま墓に持っていこうとした想いを。


「……ったくよぉ、おまえって、察しはいいのに空気は読めないよな」

「空気は読むものではない、吸うものだ」

「それが空気読めないって言ってるんですー」


 でも、あの日。加奈子の気持ちに気づいちまった時から、すでに年貢の納め時だったのかもしれない。


「ミシロ。俺……いってくるよ。帰ってきたら、おまえにキスをくれてやるぜ」

「死亡フラグだ」

「死なねぇよ! じゃ、行ってくる」

「がんばれ」


 俺は部屋を飛び出した。目指すは、となりの加奈子の部屋だ。


 ***


「加奈子」


 ドアをノックする。しかし返事はない。ドアノブをひねってみるも、カギが締まって開きそうにない。


「加奈子、話をしよう。大事なことだ」


 しかし、ドアは開かない。


「……おい、いるんだろ?」


 しかし、加奈子からの返答はない。さて、どうしたものか。鍵が閉まってるなら、中にいるはずなんだけどなぁ。

 ――ガヤガヤ。

 ん? 外がなんか騒がしいぞ?

 そう思ったのもつかの間。

 ――ピンポーン。

 おや? 誰か来たようだ。って、こんな夜中に誰だよ……。

 一階に降り、ドアを開ける。


「はい、どなたで……」

「こっ、光太郎くんっ!?」


 慌てた様子で入ってきたのは、近所のおばさんだった。

 その慌てようったら尋常じゃない。


「ちょっ、そんな慌ててどうしたんすか」

「どうしたもこうしたもっ! 加奈子ちゃんが――!」


   ***


 バタバタバタッ!

 急いで二階に駆け上がる!


『――加奈子ちゃんが、屋根から落ちそうになってるのよっ!!』


「なんでまたっ!!」


 加奈子の部屋の前に到着する。しかし、ドアは開かない!

 どうやらあいつは鍵をしめているようだ。


「ああっ! ちくしょぉぉぉぉ!!」


 思い切りドアに体当たりする!


「ぶおぉ! くそ痛ぇ!」


 だが、うずくまってるヒマはない。屋根に登れる窓は、この部屋にしかないんだ。だからなんとしてもドアをブチ抜かなければ!


「くそっ! 開け、開けよぉぉぉ!!」


 軋みをあげてはいるが……ダメだ、開かない!


「くそっ……こんなときに、俺が行けなくてどうすんだよ!」


 自分の非力さに、涙が出てきた。


「頼むっ、頼むから開いてくれよ!!」

「頼んでもドアは開かないぞ」

「!?」


 声のしたあたりを触る。

 あれっ!? 俺の尻ポケットにスマホが!


「コータローが入れていったんだぞ」

「そうなのか? ……って、今は漫才してるヒマはねぇ!」

「頼むヒマがあるなら、ドアをひたすら叩け」

「……そうだな! ぜってーブッ壊す!」


 俺はさらに体を叩きつけた。


「そうだ、もう少しだぞ!」

 徐々にドアはグラつく。そして。

 ――ガバンッ!


「よっしゃ、開いた! ドアざまぁ!!」


 急いで窓から屋根によじ登る。

 月が雲に隠れ、光が届かない。足元がほとんと見えないが、そんなことを気にしているヒマなどない。


「加奈子ー!」

「おっ、おにーちゃーん!」


 声がした方に走る!

 よく見ると、屋根のへりに指が!


「加奈子!」

「助けて! もうっ、落ちちゃう――あっ!」


 へりから手が離れた――!


「加奈子ぉー!!」


 俺は滑り込むように屋根を飛んだ。


「間に合え、間に合ってくれ!」


 まるで、すべてがスローモーションになったような錯覚。

 屋根の下に吸い込まれていく指。

 間に合え、間に合え……!

 手をめいっぱいに伸ばす。妹――いや、加奈子の手を掴むために!


「っ!!」

「あっ!」


 ぱしっ!

 間に合った! 落ちる前になんとか腕を掴めた。

 ぐきり、と肩からなんかヤバめな感じの音がした。


「ぶぉぉっ! いてぇ!」

「おにー……ちゃん!」

「加奈子! ぜってー手ぇ離すなよ!」


 宙に浮く加奈子の体。全体重が俺の片腕に襲いかかる!

 加奈子の足元には暗闇が横たわっていた。目測で地面から屋根のてっぺんまで八メートルくらいだったか。五点着地を習得してないかぎり、落ちたらひとたまりもない。

 この手は絶対に離せない。しかし、腕がヤバい。


「くそっ」

「おにーちゃん、離して! 落ちちゃうよ!? 私のせいでおにーちゃんまで落ちちゃうよぅ!」

「バーロー! じたばたすんな!」


 だが、あーだこーだとぎゃあぎゃあ喚き散らす。クソうるせぇ!


「はーなーしーてー!」

「バカ! 死でも離さねぇ!」

「――っ!」

「ここで手ェ離しちまったらなぁ、兄として――ちげぇ、男として大恥だ! 俺はヘタレだしモテないキモオタだし、なんもできねぇさ! クズで悪かったな!」

「自虐!」

「でもな、俺が死のうが肩はずれようがどうとでもなるけどな、おまえはそうはいかねーんだよ! 俺だけ生きてたって生活できねーんだよ! おまえに俺のいろいろ賭けてんだよ! だからぜってー離さねぇ! ――ってか早く昇ってきてくれって、今度は両手空いてんだから!!」

「おにーちゃん……っ」

「しんみりしてんじゃねぇ! 肩痛くて涙出てきちまっただろ! 早くこっちこい! 俺もそっちいっちゃうだろ! さっさと伝ってこーい! 無事に登ってきてくれたら重大発表しなきゃいけねぇんだよ!」

「……っ!」


 がしっと両手で掴まれた感触が、片手に伝わってくる。

 俺はもう片手を伸ばして、加奈子の腕を完全に捉えた。


「ぐ、ぐぉぉぉ……!」


 痛みなんて知らねぇ、もうどうにでもなれ!

 体を起こし、全体重を後ろにかけて引っ張り上げる。

 ふと、引っ張られる力が和らいだ。

 加奈子の上半身が屋根を越えたのだ。


   ***


 俺は仰向けに寝転がる。


「はぁ、はぁ」

「ぜぇ、ぜぇ」


 なんとか引っ張りあげた……!

 また加奈子を救えた。


「よくやった、コータロー」

「ったりめーだろーが……」


 いや、でも、マジ死ぬかと思った。肩超痛い。


「おにーちゃんっ! ごめんなさい! うわぁぁっ、恐かったよぉぉ!」

「ほんっとおまえは……もう屋根なんかに登んなよ、マジで」

「うん、もうしないっ!」


 俺に抱きついてくる加奈子。


「……って、いててて!」

「あっ、ごめん!」

「お取り込み中のところ悪いが。コータロー、話すことがあるんだろう?」


 尻ポケットから茶々を入れてくるミシロ。


「っああ、そうだった」

「話すこと……あっ、重大発表って……」

「そうだ。よく聞け加奈子! いいか、一回しか言わないからな」


 立つ気力はない。だから月を仰ぎ見ながら俺は続けた。

 雲がぼんやりと光に照らされて、白銀に輝いていた。


「俺な、おまえのこと好きだったんだっ」

「……え?」

「聞き返すなし! 一回しか言わないって言っただろ?」

「……えーっと、パードゥーン?」

「いいっ、一度しか言わないってだなぁ!?」

「相手が聞いてなかったら、言ってないのと同じなんだよ!」

「逆ギレ!」


 ほんっとこいつは!

 ちくしょー、耳かっぽじってよく聞きやがれ!


「俺、椿光太郎は、ずっと加奈子のことが好きでしたぁー!! もう言わねーからな!!」


 やべぇ、体中が沸騰する! 加奈子を直視できねぇ!


「ちょっと、おにーちゃん……なんで顔っ、背けるの?」

「こんだけボロクソ吐きまくって、てめーの顔なんか見れるかよ……」


 ぽつ、ぽつ。

 頬に落ちてくる滴。


「おにー、ちゃん……でも、私たち、家族で、兄妹なんだよ? 私なんか好きになっても、大変なだけじゃんっ! だから私、気持ちをずっとしまい込んでたのに」


 ぽたぽたと止めどなく落ちてくる滴。加奈子がいままで我慢していたものが、俺を叩く。


「んなもん関係ねーよ……」


 頭をぽんと撫でてやる。


「好きに制限なんてねぇ。お互いがいいなら、それでいいんじゃね? そんなもんだろ」

「コータロー、それは私が言ったことではないか」


 ミシロが茶々を入れてくる。どこか楽しそうな声色だ。


「おまえに言われたから俺もハラ決められたんだ。ありがとな、ミシロ」

「……そういうこという」


 ミシロがぼそっとつぶやく。


「そんなわけだ。俺はハラをくくった。……加奈子、おまえはどうだ?」

「でもっ」


 迷ってるようだ。仕方ない。いままで兄妹の関係だったのに、それを崩せと言ってるんだから。急にそんなこと言われて即答できるわけがない。俺も気持ちを整理する時間があったから結論を出せた。


「……なに、今決めなくていいさ。時間をおいて、ゆっくり考えてくれて――」

「おにーちゃん! 私……私も、ずっと好きだったんだよ? 小さいときに、ここから落ちそうになった私を、救い出してくれたときから! 落ちかけた私を助けてくれたときから……! すごく悲しくて死にたくなった私を助けてくれたときからっ!」


 俺の胸に顔を埋めてくる。……くそ、肩痛ぇっつってんのに。


「おにーちゃん、さっき『俺が死んでもなんとかなるって』って言ってたけどさっ、おにーちゃん死んじゃったら、私がダメになっちゃうんだからね! なんともならないんだからっ! だから絶対に死なないでね! 私も死んじゃうんだから!」

「ばかたれ。俺は死んでも死なねーよ」


 この小さな体に、どんだけの葛藤が渦巻いていたのか。そんなこと、俺が知るわけがない。だけど、これからは俺がこいつを抱きしめて、様々なことを分かちあっていくんだ。そう思うと、今後の不安とか、いろんな感情が俺の中でぐっちゃになってくる。

 だけど、それを加奈子に悟られないように、俺はこいつの頭をぎゅっと抱きしめた。


「えへへ……おにーちゃん、あったかい」

「生きてるからな」


 まあ、どれもこれも、全部時間をかけて解決していけばいいさ。なんとかなるもんだ、世の中なんて。兄妹で生きてた分、近所さんから冷たい目で見られるかもしれないが――。

 パチパチ……。


「んあ?」


 パチパチパチ……!


「えっ?」


 パチパチパチパチパチパチパチ!

 屋根の下から拍手喝采の大合唱! どうやら騒ぎを聞いた野次馬が集まってきていたようだ。気づかなかった。やべぇ、大声で叫んじまったじゃねーか。ハズっ!


「よっ光太郎! おまえも大人になったなぁ!!」


 近所のおじさんの声。


「やっとこうなったのねー」

「お互い、オクテだったからねぇ」


 近所のおばさん連中。


「大事にしろよ!」


 次々と冷やかしが飛んでくる。

 それは、全部が祝福の言葉だった。


「……ははっ。なんというか」


 世の中は、思いのほかあたたかった。……もしかしたら、俺らの関係をよく思わない人たちもいるかもしれない。だけど、その人たちにも、少しずつわかってもらおう。そして、周りのみんなが認めてくれるようにがんばろう。

 でも、とりあえず。今はこの祝福を甘んじて受け入れるとしよう。


「加奈子」

「なに、おにーちゃ」


 ――ガチッ!


「ふぐっ!?」

「あがっ……」


 顔を上げた瞬間に、唇を奪ってやった! ……のだが、慣れないキスに、お互いの歯がぶつかってしまった。


「……痛い」

「すまん」


 口を押さえて視線を逸らす。……俺、いきなりなにしてんだ! うわぁ思い出しただけで顔が赤くなるぅ!!


「……ねえ、おにーちゃん」

「ああっ!? なんだ――」


 ――。


「んっ……」

「…………! ぷはぁ! あー、苦しいなぁー!」

「ちょっ、加奈子……!?」

「だって、おにーちゃんばっかずるいでしょ……!!」


 加奈子がぷいっと顔を背ける。

 そして、沈黙があたりを支配した。やべぇ、気まずい。

 どうしよう。この沈黙、かなりきついぞ……!

 しかし、救いの手は意外なところから。


「カナコ、キスするときは息を止めなくてもいいんだぞ?」

「うをぉう!?」

「ひゃんっ!?」


 尻ポケットからいきなりの声。そういえば、いたの忘れてた……!


「私の存在を忘れてたな?」


 ぎくっ! 図星です……!


「いや、おまえな。そんなわけないダロー?」

「うそ」

「すいませんでした」


 俺はポケットからスマホを取る。


「拗ねるなミシロ。なにも忘れてたわけじゃない――」


 ふと、画面に表示されたウインドウが目に付く

 ……おい、これはなんだ?



 ――“ミシロ.exe アンインストール中”――



 アンインストールって……おい!?

 ゲージはすでに半分を越えていた。


「気づかれてしまったか」


 ぼそりとミシロがつぶやく。


「おい、ミシロ。……どういうことだ?」


 焦る俺に対して、いつも通りの微笑みを返してくるミシロ。


「なに、私はもう必要なくなった。だから消えるだけだ」

「はあ!?」

「コータローは自分の気持ちに気づいて、カナコと向き合う決意をした。もう幻想はいらないではないか」

「言ってる意味わかんねーよ!」


 何事かと、キョトンとしている加奈子だったが、俺の焦りように事態を察したのか、画面をのぞき込んできた。


「ミシロがどうかしたの!?」

「消えちまう……ミシロが消えちまうんだよ!」

「――!?」

「なにを驚いているのだ。コータローは本当に好きな人を見つけただろう? そして私は……そうだな、コータローにフラれてしまった」

「フラれたって……!」

「そうだろう? コータローが心から好きな人は、私ではなくカナコだ」

 表示された数字は、止まることをしらず刻々と階段を上る。

「ねぇ、ミシロ!? なんで……!」

「カナコ、泣くな。今日は二人の良き門出の日ではないか」


 ふふっと、ミシロが笑った。


「……どうしておまえはそんな顔ができるんだよ。おまえ、消えちまうんだぞ……?」


 ――70%――


「なんでって、コータローや、カナコと笑顔で別れられるようにだ。今日はいい日なのに、悲しみの涙がいるのか?」

「ミシロっ!」


 隣で涙だらけの加奈子が叫んだ。

 ミシロが、やさしい微笑みを向ける。


「カナコ」

「最初会ったときは、無駄にキョニューだし、マイペースだし、キス魔でおにーちゃんをたぶらかすし、無意味にかわいいし……すっごく気に食わなかったけど!」

「散々言ってくれるな、カナコ」


 ミシロは苦笑いしながら、そう返した。


 ――80%――


「だけどね……ミシロのおかげで、私は素直になれた!」

「(なってたの!?)」

「おにーちゃんうっさい!」

「すいません!!」


 声に出てた!


「コータローは、ほんとに女心がわかってないな」

「ほんと、おにーちゃんはニブいんだからっ!」

「そうだ、ニブいぞ」

「すいません!!」


 こんだけ言われたら、さすがに恐縮するぞ……。


 ――90%――


「だからね、ミシロ……感謝してる! ほんとにありがとねっ!!」

「カナコ」

「俺も……おまえには世話になったな」

「結局、私にキスをしてくれなかったな」


 ……そういえばそうだ。


「ああ、すまん……」

「いいんだ。それは正解だった。私の分までカナコにしてやれ」

「おまっ! そういうことはだなぁ!」

「もうっ! ミシロのバカぁ!!」


 俺の顔は真っ赤だ。たぶん……顔を背けた加奈子も真っ赤だろう。


「ほんとに……うらやましいな」

「なんだ、ミシロ?」

「いや、なんでもない。独り言だ」


 ――95%――


「ああ、コータロー、そろそろお別れだ」


 ミシロの体が、光の粒になって画面から消えていく


「コータロー、カナコ。笑って見送ってくれ」

「ああっ!」

「もちろんだよ……!」


 ――96%――


「ミシロ。俺は、おまえのことを忘れない……」

「心の片隅にでもとどめておいてくれれば、私は嬉しいぞ」

「あいかわらずデータが言うこととは思えねぇなっ!」

「私はロマンに生きるんだ」

「なんだそりゃ」


 最後まで、ミシロはミシロであろうとしていた。


 ――97%――


「まったくよぉ、ミシロ。俺、おまえが好きだったぜ」

「好きだった、か。それが正解だ。これで『好きだ』と言われたら、カナコに頼んでおまえを殺してもらうしかない」

「恐ぇ!」

「冗談だ」


 くすくすと笑うミシロ。……いや、目が笑ってません! ぜんぜん冗談に機も得ませんから、マジで。


 ――98%――


「じゃあね、ミシロ!」

「ああ。幸せになれよ、絶対」

「うん! ありがとっ!」

「私の分まで、コータローに甘えろ。たくさんキスしてくれ」

「うん……っ、うんんんっ!!」


 ――99%――


「じゃあ、そろそろいくな」」

「ああ……っ! またな!」

「バイバイ……ミシロぉっ!」

「ああ、元気でな――


 ――100%――

“アンインストールが、完了しました。”



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