第2話 なぜ、介護職は低賃金なのか?

 前項で、昨今の特養のトレンドとして、人件費を削るってことを話したが、それは実際、どのような事が行われているかを説明したいと思う。

 そもそも、経営を真面目にやっていれば、国が想定した通りの人件費となるわけである。それを素直に支払っていれば、ある程度は介護職が安い賃金になるという事は無いと考えるのが普通だと言うわけだ。

 国は報酬を決定する際、様々な角度から経営が苦しまないように計算をしている。そして、現在、多くの特養において、入所者の空きは無い状態だと言える。すなわち、国が計算する以上に、経営の基盤はしっかりとしているはずなのだ。

 普通の商売に例えるなら、例えば、アパート経営があるだろう。アパートが古くなれば、当然ながら、空きが出て来るのは当たり前だ。そうでなくても、入居者が一人、退居すれば、次が入るまでに相当期間、空いてしまう事はザラである。特養においてはこれが非常に少ない。待機者が100人以上、居るのが普通だからだ。常に100%の稼働をする稀な施設において、なぜ、労働者の賃金が低いという事があるのだろうか?

 それはすなわち、蟹工船と同じじゃないだろうか?経営側の搾取が大きくて、労働者が冷や飯を食っているという構造だ。まさにブラック企業のやり方である。

 そもそも、何故、経営者は従業員からの搾取を大きくするか。これは一般企業とは少し違った事情がある。

 一般企業の場合は、売上が上がれば、それに合わせて利益も上がる。その利益の中から従業員の賃金が払われるわけである。経営者は少しでも利益を残したい、または、経営者の報酬を増やしたいという理由で従業員から搾取をする。

 利益を残したい、経営者の報酬を上げたいという理由は特養経営でも合致する原因なのだが、前提となる条件が違う。

 特養における収入の多くは、国によって定められた介護報酬などに規定されているって事だ。特養の多くは稼働率が100%に近い状態である事を考えると、実は利益は常に決まっているとなる。そうなると、先程の理由から、利益を多く残したいと思えば、コストカットだけとなる。一般企業の場合は、より生産性を高めるや企業体質を変えるとかの企業努力によって、何とかなる場合があるが、特養においては、コストカットだけが唯一の方法となる。

 そのために経営者は当たり前のように賃金カットに手を入れる。実際はそれ以外の部分のコストカットも酷く、それは衛生面など、入居者に関わる重要な部分も多く含んでいるがこれは別の項で解説する。

 賃金カットが進んだのには背景がある。元々、特養と言うのは介護保険制度が始まる前からある施設である。介護保険が始まる前は市役所の福祉計画に乗っ取り、設立され、それに従って、運営されていた。その頃は人件費なども厳しく管理され、それ相応の賃金が払われていた。だが、介護保険が始まり、介護の自由化が始まると、運営は民間に任される事になる。途端に経営者は賃金の引き下げに入った。しかし、初期の頃は人材も少なく、不当に賃金を下げると、職員不足に陥る為に、それなりにコストカットは抑制されていた。

 だが、介護福祉士やヘルパーなどの資格制度が整備されるようになると、人材は多く供給されるようになる。さらにリーマンショック後の不況などもそれを加速させた。それに伴い、資格制度を前提にして、それまで無資格で働いていた従業員に対して、賃金カットなどを行ったのである。

 そこから始まった賃金カットは恒常化して、現在においては当たり前のようになっている。経営者側もそこから得られた利益の幅を縮小させることは出来ないとして、賃金の低いことを介護報酬や人材不足にすり替えている。

 そして、全国老人施設協議会などは、マスコミなどを使い、一般社会に広めようと喧伝しているのが解る。

 

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