第1話 社会福祉法人の落とし穴

 社会福祉法人

 世の中には多くの法人が存在しますが、社会福祉法人と聞くと、大抵の人は福祉の為に利益も出ないような事業を頑張っていてくれると思っている。

 確かに、社会福祉法人は県知事認可の法人であり、その運営にも監査役を設けるなど、一定の透明性を有している部分はあります。

 かつて、まさに福祉が儲からない頃は確かにそうでした。介護保険が始まる前の処置制度の頃は大きく儲かると言うわけでは無かったと思います。その為に税制上の優遇処置も多く存在しているわけです。

 だが、介護保険が始まってから、状況は一変しました。

 社会福祉法人は社会福祉事業を行う公益法人となります。その為に、行える事業には制限が設けられています。そして、設立する為には6名以上の理事と2名以上の監事を置くことが義務付けられています。

 理事の内訳も家族関係は1名までとし、他は地域の福祉関係者として、民生委員などとされています。監査役となる監事も同様です。

 さらに理事の倍の数の評議員を選定する必要もあります。

 ここまで厳しくされれば、経営は自由ではないと思われるのが普通だと思います。しかし、実際は役員に選出された人々はそれなりに報酬を受けているわけです。そして、大抵は理事長の息の掛かった人となります。評議員も細かい経営に関する情報などを知らされる事も無く、当人もただ、やらされている感の高い人が多い事から、まともに評議されることはありません。

 はっきり言えば、社会福祉法人の多くにおいて、理事や監事は形骸化している事が多いのです。この事が社会福祉法人の暴走と現在の混乱を招いている元凶となっているわけです。

 理事や監事による経営介入が弱いとなれば、理事長は利益の多くを自分に誘導させたいと思うのが普通です。だが、社会福祉法人は公益法人である以上、多額の利益を発生させたり、それを役員報酬などに加算する事については厳しく監視される事になります。だが、先述した通り、理事も監事、評議員もそれほど細かく経営資料を見るわけじゃないので、当然ながら抜け穴が出てきます。これはある意味では脱税にも繋がるような事であるが、それが抜けてしまっているのです。

 介護保険が始まる前からやられている方法としては、産業廃棄物、物品購入などに理事長が関与している業者を使い、通常よりも大きな価格を設定して、高い利益を産ませ、それを理事長個人に返戻するというやり方です。

 次にこれに併用する形で、社会福祉法人に大きな赤字を常に出させ、一般企業から寄付を受けるというやり方です。一般企業は寄付という形で税制優遇を受け、社会福祉法人は赤字を敢えて出して、お金を外に出す。その一部が個人に回るという形です。

 これらは古くから行われる常套手段であります。理事や監事などが言いなりで無関心な事が多いからこそ、最も簡単で有効な方法として、用いられます。

 介護保険が始まってからは、利益率をとにかく高めるために、人件費等の費用の過剰抑制ですね。最近、問題になっている介護職の低賃金もこれが原因です。

 本来、国からの報酬は当然ながら、そこで定められた人件費なども考慮して、額面が決定されています。普通にやっていれば、十分な人件費を支払っても、施設が運営に困ることはあり得ないはずなのです。

 それが人件費は充分に支払う事もせず、それでいて、経営が苦しいと言う施設の大抵はその報酬の多くを役員などが掠め取っているわけです。

 稀に報道で、一施設平均で5億円の留保金があると言われるが、その計算は概ね合っているのですが、その留保金の多くは資産運営に回され、利益を理事長が受け取るぐらいならまだ、優しい方で、大抵は理事長や理事などが懐に入れて、無くなっている場合がほとんどだと思います。簡単に言えば、横領したという事です。

 社会福祉法人と言っても、その監査体勢はザルと言っても過言ではありません。そのため、私利私欲に走った経営へと暴走する法人は多く、それが多くの軋轢を生む構造となっています。

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