17 見舞い問答
ミオは医務室のベッドに横になっていた。ついさっき眠りから覚めたところだった。
「ミオさん、お見舞いの方がいらっしゃっているわよ」
医務室のドクターが何やら含み笑いをしながら入ってきた。
「えっ、私に」
ミオはびっくりしたかのようにベッドから跳ね上がるように半身を起こした。ドクターに続いてひとりの人影が医務室に入ってくるのが見えた。
「ど、どうも」
おどおどしながら入ってきたのは哲也だ。
「なんだ、テツヤさんか」
「なんだとはなんだよ。せっかく心配して見舞いに来たのに」
「どういたしまして。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるの」
ミオは哲也に腹を立てているらしく、きつめの口調で非難した。
そんなふたりのやりとりを聞きながらドクターはなぜか必死に笑いをかみ殺している。
「わかっているわね、テツヤ君。きっかり五分だけよ。ミオはまだ安静が必要なの」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ私は席を外すわ。がんばってね」
ドクターは彼にウインクしながら部屋を出ていった。
ドクターがいなくなると途端にふたりとも無口になってしまった。気まずい空気が室内を漂う。
「……ねえ!」
たまらずミオが口を開いた。その口調は相変わらずきつめだ。
「ん、な、なに」
「なんかしゃべってよ。見舞いに来たんでしょ」
「そ、そうだな。気分はどう」
「最悪」
「そうか……」
再び無口になるふたり。
「……だからしゃべってって」
「あ、あのさ、ミオ」
「なに」
「君ってあのときいつから気を失ってたの」
「自分がいつ気絶したかなんてわかるわけないでしょ。なんか目安になるものを示してくれないと」
「そ、そうか。じゃあ俺が君を建物の隙間に押し込んだのは」
「そんなの知るわけないでしょ」
「そうか……」
「なにホッとしてんのよ」
「い、いや……。じゃあ、俺はこれで」
哲也はそわそわと椅子から腰を浮かしかける。ミオが驚きの表情になる。
「えっ、もう帰るの」
「ほ、ほら、ミオは安静にしていないといけないし」
「ドクターは五分って言ったわ。まだ三分もたってないのに」
「そ、そうだな」
哲也は再び椅子に腰を下ろした。しかしまだそわそわした様子はそのままだ。
またしばし無言の時間が流れていく。
「……ねえテツヤ」
再びミオのほうから口を開いた。しかしその口調はさっきまでのつっけんどんしたものとは違っていた。
「えっ、なに」
「ありがと」
「えっ」
「私が苦しんで走れないでいるとき、抱えて走ってくれて」
「あ、ああ。そこは覚えているんだ」
「なによ。人がせっかく感謝してあげてるってのに」
「悪かった。ほ、ほら、あのときは必死だったから」
「必死だったら人を乱暴に扱っていいと思ってるわけ」
「乱暴に扱ってなんかいなかっただろ」
「なによ。乱暴に私の『初めて』を奪ったくせに」
「ちょ、ちょっと。やっぱりあのとき意識があったんじゃないか」
「ずっと初めてのキスってもっとロマンチックなシチュでやるもんだって憧れてたのに」
「だって仕方ないじゃないか。それに俺だって初めてだったんだし」
「えっ」
「えっ」
信じられないものを見るような表情で哲也を見つめるミオと、その反応が意外すぎてこれまたミオを見つめる哲也だった。
そのふたりの様子を隣室からモニター越しに見つめる四つの目があった。
「どうやら思った通りあのふたりは気が合うようだな」
“ホッとした”、という様子でエリカがドクターに話しかけた。
「エリカ司令も人が悪いですね。テツヤ君がミオの見舞いに来たら席を外してやってくれないか、って」
「すまない、ドクター」
「でも大体なんでテツヤ君のパートナーにミオを選んだんですか。心臓のこともわかっていたのに」
「理由か。そうだな……、『父の遺言』とでも言っておこうか」
「司令のお父さんってあの伝説のかたですよね」
「そうだ。この航路を創った男だ」
遠くを見つめるような目でエリカは言った。
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