第55頁目

「今日もおだやかに光り輝いているなぁぁ」

 今日も、黄金岬から日本海を見ているオレ。

 晴天な青々とした空の下の、青々と空の色と同化している海の色。

 太陽の光りが海に、宝石のような数珠じゅず状の星の輝きを幾千万と輝かせている。


 オレは、さっき買ったタバコをジャケットの内ポケットから取り出し、

 ボックスのタバコから一本を取り出すと口にくわえる。

 お気に入りのジッポーのライターで火を・・・

 あれ?

 ん?

 ライターどこだ?・・・

 あれ?

 ええーー!。お気に入りの、徳川家の家紋の入ったジッポーが無い!

 Gパンの前、後ろポケットを探しても・・・

 な・い!。

 ジッポーライターが無い!。

 ジャケットの左右の内ポケットを探しても無い・・・

 ジッポーの表面に徳川家の紋章が刻まれているジッポーライター。

 徳川家の紋章の裏には、警察のエンブレムの菊の紋章が刻まれている、お気に入りのジッポーライター。

 そのジッポーライターが無い!。

 凄いお気に入りのオレは、今来た道を戻り、魚介類の描かれた石畳を目で追いながら探す・・・


 ・・・地面に這い蹲りながら、ジッポーライターを探していると、

 オレの後ろから、

「ライター落としましたよ。」

 と、女性の声が聞こえた。

 女性の声で思わず反応をして、オレは見上げた。

 すると、オレの目の前に見えたのは、あの彼女の姿だった。

「えっ・・・あっ・・・あ、ありがとう・・・」

 まんべんの笑みをキラキラと輝かせながら、オレにジッポーを手渡す。

 その時、オレの手の平に彼女の手が触れた瞬間、オレの緊張が最大限になった。

 心臓が急激にバクバクとしてきた。血流が早くなって貧血で倒れそうなぐらいに衝撃的な感動が爆発しそうになっていた。


 オレが涙を流したいほどの感動でいっぱいの時、

「真菜美~~早く来いよぉぉぉぉ!」

 遠くから男性の呼ぶ声が聞こえた。

 ふと見ると、道路沿いのガードレールに座り手を振っている男性の姿だった。

 勇次だ!

 指名手配の勇次だ!

 えっ?。彼女の名前って、『 真菜美(まなみ)』さんって言うのか・・・

 初めて知る彼女の名前、オレは忘れないように何度も復唱しながら、脳内にメモをする。


 真菜美さんは手を振り、勇次のいる60メートル先の位置まで、ハイヒールに無理な負担をかけながら、幸せな笑顔で駆けて行った・・・


 ねえ、真菜美さん。勇次ってヤツは、指名手配なんだぞ!。

 真菜美さんは本当に知らないのか?

 オレは、ちょっとした自分の中の勝手な思い込みかも知れない事と葛藤する。


 指名手配の顔とマジ似なだけで、本当は全然違うかも知れないし、

 実は、本当に指名手配犯かも知れない・・・

 でも今は、どっちとも言えない。

 が、

 しかし、

 オレは、勇次が絶対に犯人だと確信する!。

 だから、オレは真菜美さんを守る!。

 絶対に守るんだ!!。


 葛藤しているように見えて、全然葛藤していないオレだった。


 でも、オレはあの2人がとてもうらやましかった。

 仲良く手を繋ぎながらの後ろ姿。

 純情なオレには、凄い勃起ポイントだと思った。

 でも、どうして、あんな男と付き合っているんだろう?

 真菜美さん、早くオレの愛に気づいてくれ!・・・

 オレは、とても仲のいい2人の姿が遠くなって行くのを目にしながら、タバコに火を点けようとした時、何かジッポーに真菜美さんのぬくもりを感じた。

 あっ、このジッポー。使わないで大事にとっておこぅ・・・

 このぬくもりは、きっと今日のおかずになるかもしれないし、

 一生の家宝にもなるかも知れない!。

 でもこれは、一生の家宝にするしかない!。

 よし、家宝だ!。家宝にするぞぉぉ!。

 オレは、ジッポーをポケットにしまい、遠ざかって行く2人を見終えると、黄金岬を淋しく去って行った。


 これが、オレの純情ってやつなのか?

 もしかして、周りからは『キモい』と言われて無いだろうなあ?

 たまに自分の無意識な咄嗟の信じられない行動が怖くなる。

 オレ自体がまるで犯罪を起こしそうな、そんな危ない性格かも知れない。


 まあ、なんだっていい、世間が何と言おうと、オレは真菜美さんを愛しているし、絶対に勇次を逮捕する!。

 

 オレはまるで、刑事や警部や探偵になってる気分だった。


 そして、うかれ気分のオレは、後々に黄金岬におにぎり2つを忘れていた事を思い出す・・・


 


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