第51頁目

 大粒の雨が、オレを狙っているかように、まるでマシンガンみたいに降っている。

「大粒だーー!痛てーーよ!雨が当たって、痛てーーよ!!」

 風も強風になってきた。一過するのか留まるのかが未定な台風。

 オレは必死で両手を頭の上に乗せ、無謀にも豪雨を防御しようと必死だった。

 走り向かうボロアパート・・・視界が横殴りの豪雨でさえぎられて見えない・・・

 いったい何処を走っているのか、判らないまま彷徨っている・・・

 と、とりあえず雨宿りできる場所を探そうとするオレ。

 こんな時間に何処も空いてやしない・・・

 台風だし夜中だし、当たり前に商店は閉店している。


 大粒の雨に強風が絡みつく中、

 ふと・・・走っていた足を止めた。

 オレの視界に入った男性・・・

 その男性は、商店の雨といのビニール製の屋根下で雨宿りしていた。

 あっ!、あの男性は、 黄金岬の記念碑前で彼女と喧嘩をしていた彼氏だ!。

 オレは通りすがりに顔をちらっと見ただけだったが、

 確かにあの彼氏だった。( 18頁参照 )

 こんな台風の中、あの可愛い彼女でも待っているのだろうか?

 おいおい、まさか台風の最中に彼女を呼ばないだろうな?

 かなり考えすぎなオレ・・・

 あの彼氏かあ・・・

 こんな台風の中いったい何しているんだ?

 でも、あの彼氏、他にどこかで見たことのある顔だ。

 でも、全然思い出せない・・・うぅーーーーむ。どこで見たっけ?


 下から強風に叩かれ降ってくる、アッパーカットを繰り広げる大粒の雨。

 痛てーーーよ!

 ジャブも来るし、ストレートも来る。

 ここで、オレがフットワークでシャドウをすれば、きっとボクサーに見えるかもれない。雨を相手にやっているときっとボクサーに見えるかもしれない・・・

 そんなクダラナイ事を考えつつ、オレは走っている・・・


 視界の前方に何気に見える交番。

 ラッキー!。

 これで助かった。交番だよ、交番!。

 なんとか雨宿りが出来るかも・・・


 ふとガラス越しに交番の中を怪しく除くオレ。

 けわしい目つきで巡査の階級をつけたおまわりさんを発見する。

 オレと目が合った巡査。

 ドアに近づき、

「君。こんな台風の中、いったい何をしているんだ?」

 と言って、怖い目つきで引きドアを開けてくれた巡査。

 まだ夜中の十時半。怪しいものではありませんよ 。

 避難したんですよ巡査。

 迷子なんですよ。助けて下さい!。

「最近引っ越してきたんですが、

 台風で逃げているうちに迷子になってしまったんですよ」

「迷子か・・・台風が弱まるまで暫くここで休んでいなさい!」

 やさしい口調で、厳しそうな顔。

 巡査の親切にありがたく応えるオレ。

「助かります。ありがとうございます。」

 強風に流されながらも、必死になって入れた交番。

「今日の台風は、一過のものだから緊急避難命令は出ていないんだ。

 でも、これから、どうなるか判らないが、気を抜いていては民間を守れないので、今日は一日中警戒中になる」

 たくましい言葉の巡査。

 巡査はオレに厳格な顔で、バスタオルを手渡してくれた・・・

 なんて、やさしい巡査なんだ!。

 もし、巡査総選挙があったら一票入れるよ。


 頭を拭き、ジャケットや服を拭くオレ。

「一過なんですか?じゃあ、時間かかりますね・・・」

 オレが言うと、椅子に座りながらうなずく巡査。

「そこにある、椅子にでも腰掛けていなさい。

 今、身体(からだ)を暖めるのに、熱いお茶を出してあげよるよ」

 そう言うと、立ち上がり、奥の給湯室へと歩いていった・・・


 オレは、交番は初めてだった。

 オレはふと、壁に張り付いている何枚もの指名手配の写真と、教訓と黒板に目を向けた。

 数枚の指名手配写真が、色あせて貼られている。きっと何年も貼っているのだろう。

 オレは指名手配写真を目を追って見ていると、ある写真で目を止めた。

 ん?

 あれ?

 ・・・え゛っ?、

 こ、この顔は?

 あっ!、!。

 え゛っ?!

 オレは何度も見直す。 

 再確認を何度もして、また見直す・・・


 髪は五里刈りの眉無しでホスト系の輪郭にやさしい目。

 この顔は、あの子の彼氏に似ている・・・

 ただ、違ったのは、髪型と眉毛だけだった。

 オレはじっくりと写真を見て特徴を見る。

 見間違いかな?。でも、やっぱり、あの彼氏に似ている・・・

 いや、この顔は・・・

 やっぱり、あ・い・つの顔だ!


『 両親殺害後、逃走中。殺人容疑で指名手配。

 刹那 勇次(せつな ゆうじ)(22)』

 指名手配から三年。今は25歳ぐらいになっているはず。


 えっ?。殺人犯?・・・

 指名手配犯?・・・

 これが、『 灯台もと暗し 』ってやつか?

 もし、殺人犯なら、あの彼女の命も、いづれ危ないかも知れない・・・


 そう思うと、オレは、慌てて交番を出た。

 さっきより激しくなっている台風に雨・・・

 そんなことより、とりあえず、その彼女に知らせなければ・・・

 たとえ、思い違いでも、勘違いでも、早とちりでもいい、

 彼女にその事を知らせたい。

 彼女に危機がある事を知らせたい・・・

 でも、彼女のいる家が分からない・・・

 ま、まあ、とりあえず、あの彼氏を捕まえよう!。

 オレは、夢中であの彼氏のいた商店まで走り戻る・・・


 ・・・必死にたどり着いた商店。が、すでに彼氏はいなかった。

 残念だ。せっかく捕まえられると思ったのに・・・


 ・・・そしてやがて、台風が激しくオレに強い打撃を与える。

 オレは走りつかれて、息をはぁはぁさせながら弱っていると、

 ビュバッ!!

 と言う激風と共に、激しく飛んできた看板がオレにぶち当たった。

 オレはぶち当たった瞬間の激痛と共に、その場に倒れ込み、意識が遠のいていった・・・ ・・・

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