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 保池(ぼち)さんが階段をコツコツと降りて行く・・・

 ただ、保池(ぼち)さんが何故、腕に二本線の入った赤のジャージの上下を着ているのか判らなかった。

 着やすいから?それとも服が無い?もしかして、それが普段着?

 そういえば、昨日訪ねたときも、同じジャージだった。

 普段着?パジャマ代わり?

 それとも、ジャージ好き?

 まあ、いいやそんなことは・・・


 オレがボー然として考えながら階段を降りようとすると、アパートの前に有る駐車場からエンジン音がした。

 ん?あれ?車かあ?。

 そういえば、このアパートに来た時は車が一台も駐車場には止まっていなかった。

 階段を降りた時間とエンジンがかかるまでの間(ま)の想定で言うと、保池(ぼち)さんが乗ったんだな。

 階段を降りて行く・・・と、目に止まると言うより愕然と思わず見てしまった。

 保池(ぼち)さんの車?

 斜め後ろの角度から見える保池(ぼち)さんの姿・・・

 丸みを帯びた車全体のフォルム・・・オレは歩きながら、保池(ぼち)さんの乗っている車の斜め前に立つ。

 ワイド感を強調する、シャープなフォルムのバンパーに大径の楕円形がとても可愛いらしいヘッドライト・・・

 車のフォルムを目で追い・・・ガイコツ顔の保池(ぼち)さんに目を向ける。

 あんたには似合わないよ、この車は・・・

 口に出して言えないほどの言葉が心で渦巻く・・・

「これからドライブですか?」

 思っている言葉は口に出さず、普通な挨拶程度の言葉で保池(ぼち)さんに苦笑いで言う。

「車のパーツを注文していたんだ。今から取りに行くところさ」

「そ、そうですか・・・。安全運転で行ってくださいね。最近事故が多発していますから・・・」

 心にもない言葉を言っている自分に思わず拍手したくなる。

 保池(ぼち)さんは手を振り、空(から)ふかしさせた排気ガスを残し去っていく・・・

 丸みの帯びた可愛いフォルムのオープンカー。

 顔で車を選べよと叫びたくなるほどに、とても似合わない。

 せいぜい霊柩車がお似合いかもしれない。

 ひとそれぞれ、物好き、十人十色。と言う言葉もあるように勝手なのは確かだ。

 けど、「限度を知れよ」と思わず言いたくなる。


 多分塗装を変えたのだろう。あのボディカラーに、竹やりマフラーはないだろう。あの車に・・・

 メタルブルーのフォルクスワーゲン・ニュービートル・カブリオレだぜ。

 オープンカーだし。ガイコツが顔出して走っているようにしか思えないな。

 それに、ボンネットに描かれてたメタルブルーの「ドラ〇もん」の顔。

 ・・・あの人にあの車。今度会っても車に関してのコメントは保池(ぼち)さんだけは控えよう・・・

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