第5頁目
優紀さんは、階段を降りて一番左側の部屋で足を止めた。
九号室の隣の十号室の管理人さんの部屋。
ドアの上の十号室明記のプレートの上に、管理人室と貼られている。
優紀さんは、部屋のインターフォンを押して、
「管理人さ~ん!」
と大声で管理人さんを呼ぶ。
ドアの向こうから、低い声で管理人さんが
「どなたですか?」
と言うと、優紀さんは、
「どうもです。今日引っ越してきた藤沢ですけど、管理人さんの仔猫が彷徨っていたので、帰しに来ました。」
と笑顔しながら言う。
ドアを開けて管理人さんが出てきた・・・
もう、五十歳はいっているのかな?管理人さんの頭いっぱいに白髪が思う存分生えている。
口ひげが左右に伸びて、手入れもキレイにされている。
まゆげも太くて白い。
ロマンス・グレーって言ったほうが良いのかな?
まあ、紳士タイプの管理人さん。
優紀さんが宇宙(コスモ)を管理人さんに手渡す。
「こりゃあ、わざわざドウモ、ドウモ
宇宙(コスモ)がいないと思ったら、藤沢さんが見つけてくれましたか」
管理人さんがドアを閉めようとすると、優紀さんが思い出したかのように言う。
「管理人さん?あの・・・その宇宙(コスモ)って名前、変わった名前ですけど、由来とかあるんですか?」
管理人さんは、閉めるドアを止めると、自慢の口ひげを撫でながら数秒黙った。
「名前?藤沢さん、珍しい事聞くね。宇宙(コスモ)の名前の由来を聞いたのは、あなたが初めてだよ」
「そうなんですか?でも、ほとんど聞いたことの無い珍しい名前だと思いまして、猫らしくない名前だったもので・・・」
目をキョトンとさせて管理人さんが優紀さんを見ていた。
一度、キョロキョロと辺り(あたり)を見渡すと、囁く(ささやく)ように優紀さんの耳元で話し始めた。
「藤沢さん?実は・・・」
「えっ?」
「この仔猫が、どうしてこんな名前になったか教えますけど、誰にも言わないでいただけますか?」
管理人さんが声を震わせ、怯え(おびえ)ながら優紀さんに仔猫の宇宙(コスモ)の名前の由来をささやき話し始めた。
優紀さんは、ほとんど怪談話しを聞いているようだった。だけど、その話しは、ほとんどでは無く、全く(まったく)の怪談話しだった
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