第84話 フィリピン人は人前で怒ってはいけない

 フィリピン人に限らず、外国人は人前で怒ってはいけないとは、よく言われることです。

 日本人はそういうことに意外と鈍感で、けっこう上司がみんなの前で部下を叱るということがありがちですが、なんだかんだいって、日本人は精神的にタフなんでしょうか?


 ある日、私はプロジェクト・コントロールを行っている部下(私が面接した)に、数量を拾う仕事をやらせていました。

「屋根の平米数って出た?」

「はい。これです」


 なんとなく違和感が。概算の暗算で少ない気が……。

「これってどうやってだした?」

「これとこれをかけて……」


 やっぱりなあ。

 この男、平面図上で真上から見た寸法をそのままかけてました。


「ちがうだろ。屋根は勾配がついてるんだから、平面図の寸法そのままかけたら少なくなるだろう?」

「?」

「いや、だから……」


 小学生だって、ちょっと説明すればわかりそうなことじゃねえか?


 しかたなく、私は立面図で説明しました。

「君が拾った寸法はこれ。だけど屋根や勾配がついてるから、この寸法をひろわなきゃならないだろ?」

「いや、そんなことはありません。私は間違ってません」

「いや、だから」

「間違ってません」


 ぶちっ。

「間違ってんだよ、てめえは! 頭悪すぎんじゃねえのか。この馬鹿!」(日本語)


 フィリピン来てはじめてキレました。

 というか、私は滅多にキレません。部下をここまで怒鳴りつけたのははじめてかも。


 私はもうひとりのプロジェクト・コントロールに命じました。

「おまえ、こいつが拾った数量、ぜんぶ拾い直せ!」

「イエッサー」(ちょっとびびってる)


 次の日、そいつはいませんでした。

 机の上には書き置きが。


『やめます。呪ってやる』


 すみません、ちょっと盛りました。呪ってやるは書いてません(笑)。


 こうして私は激怒して部下を辞職に追い込んだ男になりました。


 半沢直樹の悪役かっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る