第83話 南野、悪役になる

 プロジェクトマネージャーとなると、人を雇うほか、場合によっては使えないやつを解雇したり、給料を下げたりすることも必要となります。


 とはいえ、私は極力、部下の首を切ることを避けてきました。

 恨まれたくないというより、やっぱりいやなもんですよ、あれは。

 

 俺のせいで、こいつ路頭に迷ったらどうしよう? とか考えたら、なかなかできるもんじゃありません。


 甘いと言われるかもしれませんが、私はべつに本職の経営者じゃないので、いいんです。


 で、現場も進み出したある日、現場視察に来たSさんが私に言いました。

「う~ん。あいつ、思ったほど使えないな」

 その男はSさんが面接して決めたエンジニアで、給料を決めたのもSさん。それなりに高めの給料が設定されていました。


「南野、あいつの給料下げろ」

「は?」

「もっと使えるやつかと思ったんだが、あれじゃ他の奴らの変わりない。高すぎる」


 鬼か、こいつは? と思いました。


「じゃあ、頼んだぞ。うまく説得しろよ」

「はああああああああっ?」


 俺にやらせんのかよ、それっ?


「だっておまえ、プロジェクトマネージャーだろ?」


 ほ、ほんとに、こいつはもう!

 おまえが給料決めたんだから、おまえが言えやぁあああ!


 へたれだからいえない、南野。


 そんな課題を残し、Sさんは帰って行きました。


 仕方なく、私は彼を呼びました。給料下げる宣言をしなくてはなりません。


 恨むな。後ろから刺すなよ。恨みはSさんにぶつけるんだぞ。

 10倍返しとか考えんなよ。


 こんちくしょうめっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る