第85話 フィリピンの女はたくましすぎる

「南野さん」

 プロジェクト・インチャージのリトが話しかけてきました。

「じつは新しい経理を入れなくてはなりません」

「え、なんで?」

「もうじき子供が生まれます」

「は?」


 念のためにいうと、経理は若い女性です。

「妊娠してたの?」

「ええ」


 子供はいないと聞いていたが、妊娠していたのか?


 ぜんぜん気づいていませんでした(ある意味、ひでえ)。


「で、寿退職か。まあ、しょうがない。新しいの入れるしかないな」

「それがやめないって」

「え?」

「出産したら、1週間で戻ってくるって」

「1週間?」


 なにをいってるんだ、そいつは?

 無理だろ。子育てをどうする気だ?


「生まれたらメイドを雇って、自分は仕事に戻るそうです」


 メイドを雇うって、おまえどんだけ高級とりなんだっ!


 いっちゃなんですが、安いですよ。そいつの給料からメイドに給料払ったら、なんぼも残らないんじゃ? それともメイドの給料ってそんなに安いの?

 それとも知り合いの暇人にでも頼むのか?


 そこまでして、ここの仕事やりたいの?


 ……物好きだなっ!


「で、そいつが休んでる間、新しい経理いれて、そいつが復帰したら、新しい経理どうすんだ? クビ?」

 そいつはひでえ話だ(笑)。


「それはさすがに……。まあ、ふたり体制ってことで」

「マジか?」


 もともとこの現場のためにやとったスタッフなんで、妊娠してると知ってたら雇わなかった。

 筋から言ったら、新しいのを雇ったら、もとからいたのにはやめてもらうしかない。


「もういいよ。ダブル経理でもなんでも。好きにしろ」

「ありがとうございます」


 ええ、私は仏です。けっして鬼や、半沢直樹の悪役上司ではないんです。ほんとですよ。


 それにしても、フィリピン女性、たくましすぎだろっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る