第23話 すごい男はりきる!

 こうして二大プロジェクト体制になったマニラ支店建築部はM籐班から分岐してしまったわけですが、そっちの担当は、所長プロジェクト・マネージャーがとうぜんのSさん。アシスタント・マネージャーとして、私ともうひとりのY君。さらに新たに来た設備の担当者がふたり。

 ちなみに現地法人の設備屋は、担当者が日本人なので、海外初経験でも業者との打ち合わせに困ることはないようです。(建築にはそんな気の利いたもんはいません)


 新しい現場なので、ローカルのスタッフもとうぜん、前の現場とは違います。(前の現場はまだ稼働中ですし)

 サブコン(下請け業者)はほぼ同じ業者。ただし担当者は違います。


 ここではりきる我らがすごい男、S所長。

「新体制を作るぞっ!」


 M籐さんは、自分が日本人施主と打ち合わせた後は、それをローカルスタッフに流し、あとはかなりの部分を彼らに任せていて、あとは要所要所を管理するやり方。

 よくいえば、「責任は俺がとるから、おまえら好きにやれ」タイプ。

 悪くいえば、楽してる。

 その下にいた私はさらにやることがない。


 しか~し、Sさんはそんなやりかたでは満足できなかった。


「俺がすべてを管理する」


 ローカルスタッフとのコミュニケーション能力ではM籐さんの上を行くSさんは、ローカルスタッフとの打ち合わせを密にし、サブコンとの打ち合わせにも出席し、毎日進捗状況等を確認していく。(まあ、あたりまえっちゃえ、あたりまえですが)

 とうぜん、部下の私たちも同様。

 毎日、ローカルスタッフが、サブコン担当者と打ち合わせをし、それを聞いてる感じ。もちろんSさんは口も挟みます。


 もっとも最初はぜんぜん打ち合わせ内容を把握できないでいました。


 さらにSさんは進捗状況などを私たちに確認させたり、スタッフに指示を出させたりします。

 放任状態のM籐さん流より、仕事は増えましたが、覚えもするというものです。


 ひょっとしてSさんて、じつはいい人なんじゃないの?


 そんな考えが頭をよぎりました。

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