第22話 すごい男はいきなりバトルする!

 あたらしい現場はまだ始まらず、Sさんはマカティの事務所で準備をしていましたが、ある日、支店長といっしょにM籐さんの現場(つまりまだ私がいる現場)にやってきました。

 なんでも発注者の会社の偉い人(日本人)が近々現場を視察に来るそうです。

「おう、ちゃんと準備しとけよ」

 支店長はそういいのこすと、自分はさっさと帰っていきました。


 M籐さんはあきらかにめんどくさそうでした。

 しか~し、対照的にSさんは燃えた。


「M籐さん、あれやっときましょう」

「これも準備しときましょう」

「あれも、これも……」


「いや、Sさん、いいから、こっちでぜんぶやるから」

「え、でも……」

「いや、いいから。っていうか、そんな特別なことする必要ないから。いつもどおり、ありのまま見せればいいんだから」


「いや、俺はそうは思わないな」


 おお、なにやら、不穏な空気が……。


「そのために俺をわざわざここに連れてきたんでしょう?」


 ざわざわざわっ。

 聞きようによっては、あんたが無能だから支店長が俺に頼んだと言わんばかり。


「あ~っ、そうですか? そうですよね。じゃあ、よろしくお願いしますっ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 M籐さん、反撃きたぁあああ! じゃあ、有能なあんたがやってください。お手並み拝見します。ってところですかっ?


 っていうか、いきなりバトルはじめんなよっ!


「ようし、南野やるぞっ」

 すでに、手下扱い。とほほ。


 Sさん、はりきってなにやらやったんですが、なにをやったかまるっきり覚えてません。

 覚えてませんが、なんかすばらしいことをやったんでしょう、きっと。あれだけ大見得切ったんだから。

 そうに決まってます。


 ちなみにこの直後、新しい現場が始まり、M籐さんの下についていた有象無象どもは、二手に分かれました。

 ちなみに私はSさんの現場だった。


 ……やっぱりな。

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