第五章 故郷へ

第21話


-朱雀side-



俺は・・・死んだのか?


瑞々しい緑の香り、遥か遠くから聞こえてくる鳥の声、楽しげな歌声、懐かしい風……


あの頃の故郷の感覚…


刀を握るためだけに生きている、人間らしさのない妹の瞳…


俺が守らないと…その瞳を見る度、そう思った


龍愛、お前だけは、俺が絶対に……


そうだ。俺はまだ…死ねない…




「…朱雀!生きてるか!?」

「…!…龍愛…!ここは…」


夜の闇に閉ざされて、不気味なほど静かなこの場所…


「おそらく…私たちの、故郷だろう…、叢雲の作った、な」

「…!」


そうだ、この感覚…

玄武を追って夢の中へ潜り込んだ時の、あの感覚だ…


「あの野郎…またあの時みたいに…」

「とにかく、ここから脱出しよう。これが夢なら、醒める方法は必ずあるはずだ」

「ああ」



-白虎side-



俺と玄武は、あのおぞましい濁流に飲まれたはずだ。

しかし今、俺も、目の前で焦りの色を浮かべる玄武も、怪我一つなく無事で、おまけに傍らには先祖代々、西原家と共に生きてきた刀が寄り添うように置いてある…


これは…


「叢雲が、ついにその気になったのかな」

「どういうこと?」

「俺たちをこの夢…故郷に封じて一気に消し去るつもりなんじゃないかな、だから俺たちの力とも言える武器も、ここに」

「それじゃ、みんなもここにいるの?!」

「…可能性はあるね」

「!…白虎、みんなを探そう…!」


玄武に腕を引かれて立ち上がる。

率先して俺を先導する玄武の姿は、誇らしく思えた。




-青龍side-


気が付くと、そこは見覚えのない集落だった。

先程までの記憶は鮮明に残っている。

あの庭に出て月を見ていた。

その時だった。異様な気配を察したのは…


中庭から俺と丙の部屋は通じていたため、丙のもとへ駆け付けた瞬間、黒い影に飲まれたのだ。



「丙、無事か?……!」


そこに、いつも付いてきていた丙の姿はない。

周りを見渡しても、どこにもいない。


「丙!!」


これが叢雲の仕業だというのは、直感で悟った。

俺は傍らに落ちていた青龍刀を握り、丙の姿を求めて走り出した。


「くそっ…!」


丙に側を離れるなと言ったのは、あの子を守ると誓ったのは俺だ、なのに…

あの影は何なんだ?どこから現れた?


丙は…あいつらは無事なのか?


「丙!!どこだ!!」



頭上の月が、翳りはじめていた…――




(続)

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