第五章 故郷へ
第21話
-朱雀side-
俺は・・・死んだのか?
瑞々しい緑の香り、遥か遠くから聞こえてくる鳥の声、楽しげな歌声、懐かしい風……
あの頃の故郷の感覚…
刀を握るためだけに生きている、人間らしさのない妹の瞳…
俺が守らないと…その瞳を見る度、そう思った
龍愛、お前だけは、俺が絶対に……
そうだ。俺はまだ…死ねない…
「…朱雀!生きてるか!?」
「…!…龍愛…!ここは…」
夜の闇に閉ざされて、不気味なほど静かなこの場所…
「おそらく…私たちの、故郷だろう…、叢雲の作った、な」
「…!」
そうだ、この感覚…
玄武を追って夢の中へ潜り込んだ時の、あの感覚だ…
「あの野郎…またあの時みたいに…」
「とにかく、ここから脱出しよう。これが夢なら、醒める方法は必ずあるはずだ」
「ああ」
*
-白虎side-
俺と玄武は、あのおぞましい濁流に飲まれたはずだ。
しかし今、俺も、目の前で焦りの色を浮かべる玄武も、怪我一つなく無事で、おまけに傍らには先祖代々、西原家と共に生きてきた刀が寄り添うように置いてある…
これは…
「叢雲が、ついにその気になったのかな」
「どういうこと?」
「俺たちをこの夢…故郷に封じて一気に消し去るつもりなんじゃないかな、だから俺たちの力とも言える武器も、ここに」
「それじゃ、みんなもここにいるの?!」
「…可能性はあるね」
「!…白虎、みんなを探そう…!」
玄武に腕を引かれて立ち上がる。
率先して俺を先導する玄武の姿は、誇らしく思えた。
*
-青龍side-
気が付くと、そこは見覚えのない集落だった。
先程までの記憶は鮮明に残っている。
あの庭に出て月を見ていた。
その時だった。異様な気配を察したのは…
中庭から俺と丙の部屋は通じていたため、丙のもとへ駆け付けた瞬間、黒い影に飲まれたのだ。
…
「丙、無事か?……!」
そこに、いつも付いてきていた丙の姿はない。
周りを見渡しても、どこにもいない。
「丙!!」
これが叢雲の仕業だというのは、直感で悟った。
俺は傍らに落ちていた青龍刀を握り、丙の姿を求めて走り出した。
「くそっ…!」
丙に側を離れるなと言ったのは、あの子を守ると誓ったのは俺だ、なのに…
あの影は何なんだ?どこから現れた?
丙は…あいつらは無事なのか?
「丙!!どこだ!!」
頭上の月が、翳りはじめていた…――
(続)
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