第16話

龍愛side



玄武は私たちに、あの日の全てを話し、そして頭を下げた。


「…そうだったのか…」

「うん」


玄武から聞かされた事は、信じられないものだったが、玄武を責めるような真似はできなかった。


玄武は故郷が消えた日に、瘴気によって豹変し、妖ともつかない恐ろしいモノなっていく村人たちを目の当たりにしていたという。

母親と一緒に村からの脱出を試みたが途中で母親が瘴気に飲まれ、まだ理性のあるうちに、と命ぜられるまま殺してしまった。

その際に暴走した力が村を火の海に変えた、と。


「ごめんなさい…みんな」

「玄武、もう謝るな。玄武が悪いんじゃない」


玄武の目をしっかりと見て、私は言った。


「全ての元凶は、叢雲だ」

「龍愛ちゃん…ありがとう…」

涙を流す玄武を、白虎が何も言わずにゆっくりと抱き締めた。




その夜、



「白虎」

「龍愛、どうしたの」

「今朝、私は元凶は叢雲だと言ったが…何の憎しみもないような妖があれほどの災厄を引き起こすとは到底思えない。奴は、何らかの怨みを抱いていると思うんだ」

「よく気がついたね龍愛。そう、あれはきっと妖なんかじゃないよ。あれは…」


ーーー


「怨霊、か」

都の夜空を仰いで、朧は呟いた。

「彼奴は妖などではない」

「朧様は…彼と戦うおつもりなのですか」

「恐ろしいか、春殿姫」


春殿姫と呼ばれた少女はゆっくりと首を横に振る。

「いえ、朧様を信じておりますから…でも、私…」

「泣くでない。我はここにいる。これから先も、離れたりなどしない」


春殿姫を抱き寄せるその言葉に偽りなどなかった。




「叢雲は滅茶苦茶に怖え」


朱雀は龍愛の横で膝を抱えた。

「あいつ、キャベツ野郎に化けやがった」

「は?化けた?」

「化けたっつーか…良く分かんねぇ、とにかくあいつ、玄武の口を借りて喋ったんだ。『そのまま殺してしまえ』って…あいつ、夢の中で俺達を殺す気なんじゃねえかな…神隠しって言われてる奴らも…もしかしたらあんな風に夢に飲み込まれて」

「口を借りて喋った…」

「もうわかんねぇ…俺、マジでキャベツを殺しかけたんだ」


うずくまる朱雀の隣で、龍愛は過去の記憶を探っていた。

十年前のあの日見た少年。似ているとは思っていたが、やはりあの少年は…


「犀河丙…」



庭の池に映された月が、ゆらりと波打った




(続)


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