第7話
-龍愛side-
衝撃の直後、朱雀と白虎は素早く立ち上がり庭を見た。
私も後からついて行き、朱雀の後ろから庭を見渡す。
そこには二人の人間が倒れていた。
一人は平安時代を連想させる狩衣姿の青年。派手な赤い髪が目を惹く。
もう一人は小柄で茶髪の少年。彼もまた袴をを穿いていて、あまり現代では見かけない格好だった。
それを見た玄武が飛び出して二人に駆け寄り、揺すりながら呼びかける。
「ねっ、ねえ!大丈夫!?」
すると、少年の方が身体を少し動かし、目をぱちりと開いた。
「大丈夫…?」
「…ここは…?」
鈴を転がしたような、細い声が少年から発せられる。
(この声…)
「んーとね…」
玄武が返答しようとした時、もう一人の青年がゆっくりと起き上がった。
「…っ今度は何だ…?」
少し鼻にかかった低い声。
二人とも戸惑いを隠せない表情だ。
そんな二人に、玄武は笑顔を浮かべた。
「ここはね~、そこにいる白虎の家だよ」
「…………」
何だか疑心を秘めた目をしている青年。
その瞳には、静かな敵意が宿っている気がした。
彼はゆっくりと辺りを見回すと、立ち上がって砂を払った。
それに続いて少年もぱんぱんと砂を払いながら口を開く。
「すみません。ご心配おかけしました」
「いーよ、いーよっ。とりあえず、中入りなよ」
「あ…はいっ、失礼します」
*
「お茶、入ったぞ」
私は二人と他のみんなにお茶を運んだ。
「あっ、ありがとうございますっ」
緊張を隠せない様子の少年はぺこりとお辞儀をする。
一方青年のほうは小さく礼をしただけだった。
「…ところでさあ~、二人ともどっから来たの?」
玄武は満面の笑みを浮かべる。
その瞬間、少年は俯き、黙り込んでしまう。
青年は手を付けず、見つめていた茶から目を離すとぼそりと答えた。
「…俺は都からやってきた」
「都?」
それに白虎はいち早く反応する。
そして少し考える素振りをすると、こう問いかけた
「……それはもしかして、たいらのみやこ、かな?」
「ああ」
青年と白虎のやり取りを見て、玄武は隣に座っている朱雀に小声で問う。
「…ねえねえ、たいらのなんちゃらって何?」
「…平安京のことだ」
「ええっ!?」
大声を上げた玄武に朱雀はゲンコツをお見舞する。
うがっ!とうなったきり、玄武は静かになった。
「そうなんだあ~、じゃあ、君は?」
白虎は穏やかな声色で少年に振った。
少年は俯いたまま、ゆっくりと首を横に振る。
「……おぼえてないんです、僕。気が付いたら、土砂降りのなか、必死で、なにかから逃げていました」
ゆっくりと紡がれる言葉。
すっかり落ち込んでしまった少年を元気づけるように、玄武は微笑んだ。
「しょうがないよね、大変な目に遭ったんだもん」
「すみません…」
「へーきへーき、俺もよくあるし!」
「お前はいつもだろうが」
朱雀の一言に玄武は負けじと返すが、さらなる攻撃についに心が折れてしまった。
そんな二人に、少年は少し気持ちが軽くなったようだ。
「まあ、帰る方法が見つかるまで、ここに住みなよ」
「…いいんですか?」
白虎の誘いに、少年の大きな瞳が少し輝いた。
「いーよ全然、この二人も似たようなもんだし」
と言って私と朱雀を指す。
少年は微笑むと、丁寧にお辞儀をした。
「よろしくおねがいします」
「……よろしく」
青年も軽く礼をすると、白虎は微笑む。
「じゃあ、一緒に暮らすんだから、自己紹介しないとね」
すると、青年が口を開く。
「…南青龍だ」
「あ、えっと、僕は犀河丙です。今日から、どうぞよろしくおねがいします」
少年は、少女のような愛らしい笑みを浮かべ、首を傾げてみせた。
その姿に、私は身をすくませる。
…どことなく似ている。『彼』に。
『姉さんなの?』
『姉さんはその刀で殺された!!!!』
彼の笑顔は、あの日の出来事を鮮明に思い出させた。
「…龍愛ちゃん、大丈夫?」
「!…ああ…ごめん」
この出会いが、私たちの運命を大きく動かしていくような、そんな気がしていた。
(続)
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