第6話
-青龍side-
「……無理に決まってるだろう…」
俺は腕を組み、書物と睨み合っていた。
机上には他にも書物があり、山積みになっている。
全て妖について書かれたものだ。
この膨大な資料の中から、最近この京の都を騒がせている妖を突き止めてくれだなんて、いくらなんでも無理だ。
「……チッ…」
舌打ちをし、読み進めていく。
ただし、慎重に確認していった。
いいかげんに見て、万が一見逃しでもしたら、また最初からやり直すことになる。
そうなったら、一晩では終わらない。
妖なんか放っておけば良いものを…
話を聞く限りでは、別に大したものではなかった。
夜中に何かが扉を叩くとか、物音がするとか、そんなのだ。
そのためだけに何故俺がこんなに苦労してるんだ…
俺は占い師でもなければ陰陽師でもない。
ごく普通の新米の箏師だ。
妖と関わっていたのは子供の頃だけで、もう何年も関わっていない。
「…はぁ…」
溜め息を吐きながらも書物に目を通す。
そのとき、玄関の扉に何かが当たる音がした。
当たるというより、もっと、重たい音。
何かがもたれかかったような音だ。
「……」
…例の妖か?
確認しようとしたが、恐らく下等な妖だろうと推測していた俺は無視を決め込んだ。
しかし物音は止まない。
今度は扉を叩いてくる。弱々しく、やがてそれは強さを増した。
「………うるさい…」
近所迷惑だ。
しばらく床に座って様子を見ていたが、そろそろ我慢の限界だ。
こんな夜中に物音を立てられて、仕事を邪魔されるなんて、誰でも嫌だろう。
それに、今こいつをどうにかすれば俺の仕事も減るんじゃないだろうか。
「……よし」
俺は扉を開けることにした。
少し大股で扉に近付く。
壁に立てかけてあった青龍刀が目に入ったので一応そいつを持って戸に手をかけた。
「……」
…この扉を開けたら、そこには何が居るんだろうか。
何がおかしいのか知らないが、ニヒニヒと楽しそうな妖か。
もしくはどんな大男も腰を抜かすような恐ろしい妖か。
どっちにしろ、問答無用で叩き斬ってやる。
…そうだ、両手に力を込めて張り倒してやるのもいいな。
そんなことを考えながら
俺は思いっきり扉を開け放した。
バン!と音がして開いた扉の先には、
妖などではなく、ぐったりとした小柄な少年がずぶ濡れになって立っていた。
立っているというよりも、壁に寄りかかって、なんとか身体を支えているような状態だった。
「…っ、助けて、下さい……っ」
「…、何があったんだ」
倒れ込む少年を支えて問う。
彼は俺の肩にも届かないくらいの短身だった。
見た目からして、12歳くらいだろうか。
少年は肩で息をしながら外を指差す。
俺はそれに沿って外を見た。
「ッ!」
俺の目に飛び込んできたのは、荒れ狂う大きな黒い影。
耳を澄ますと、すすり泣く声や怒りの声、うなり声など様々な声が入り混じって聞こえてきた。
その声を聞いた途端に少年は身を竦ませる。
ひゅっと息を飲んだ音が聞こえた。
手足がピリピリとして、扉を閉めろと全身が警告する。
分かっているのに、身体が動かない。
その凄まじい怨みに圧されて身動きが取れなかった。
すると突然、大きな轟音の直後に影が大爆発を起こし、辺りは閃光に飲まれていく。
咄嗟に少年を庇ったが、為すすべもなく俺達は光に巻き込まれた。
(続)
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