第4話

私は少年に斬りかかった。


けど、身体は石のように固まって動かない。



「っ………!」



そんな私を、目の前の少年の大きな瞳が見つめる。


少年は、少女のような愛らしい笑みを浮かべ、首を傾げてみせた。

それに合わせて、後ろから伸びた一本のおさげが揺れる。


私の身体は動かないまま、

森の中でのように頭の中に声が響く。



『姉さんなの?』


「…………」


『……違うのか?』



突如、少年の顔つきが変わる。

恐ろしい、悪霊の表情。



『姉さんはどこだ』



「……っやめろ」


刀を振りかざしたままだった私の手が私の意志とは関係なくゆっくりと動き出す。

気がつけば刃先は私の腹部を狙っていた。


『どこだ』


「知らない…!」

なんとか腕を戻そうとするが、動かない。

どんなに力を込めても、私の手はぶるぶると震えるだけだった。


『知らない筈はない!』

「ッ!!」

一気に腹部目掛けて下ろされる腕。

私はなんとか止めて刺さらずに済んだが、服には血が滲む。

きっと次はない。


「お前の姉さんなんて知らない!!」

『姉さんはその刀で殺された!!!!』

「……え…?」



「龍愛!」


声と同時に、朱雀が現れ少年に素早く刀を振り下ろす。

しかし、少年は消えてしまった。


私は解放されて、地べたに座り込んだ。

朱雀は辺りを見回してから私に駆け寄って来てくれた。


「龍愛、大丈夫か」


「…うん…」


「良かった」


頷く私を見て朱雀は私の肩に手を置き、安堵の笑みを浮かべる。

そして、もう二度と無茶するな、と私に言った。


「とにかく、ここから出よう。村は危険だから、どこか……、ッ!!」

「朱雀!?」


物凄いスピードで突っ込んで来た影は朱雀を飲み込み、一瞬で消し去ってしまった。


そのまま、影もどこかに消えてしまった。

先程までの憎悪の念もなく、燃え盛る村の中、私と自分の刀だけが残された。


私は刀を見つめる。


『姉さんはその刀で殺された!!!!』


少年の言葉が忘れられない。

本当に、これで人を殺したのか?

この刀は妖だけに使うもの。

それにむやみやたらに妖に使ったりはしない。

何もしない妖には私たちだって何もしない。

ただ、村を襲う目的でやってきた妖を私たちが誰にも知られずに倒すためのもの。

人間に使うなんてもってのほか……


『ごめんね、  、ごめんね……私のせい、だよね』


また、あの少女の声。

私は無視して村を出ることにした。

そっと刀に手を伸ばす。


「!」


柄を握った瞬間、頭に走る激痛。

思わず倒れ込むが、なかなか治まらない。

それどころか痛みは増すばかり。

いつの間にか私は意識を手放していた。


 



──その後、私は駆けつけた消防隊によって救助された。 

後日聞いた話によると、私の手は固まったように強く刀を握りしめており、大人の力でも取れなかったという。

だから病室で目覚めるまで、私は刀を持ったままだった。


それから十年間、私は施設や親戚の家を転々として、今年から一人で暮らすつもりだった。

そして今日、朱雀と十年振りに再会したのだった。


「朱雀、」

「ん?」

前を歩く朱雀は振り返らずに応える。


「朱雀は、あの後どうしてたんだ?」


「あの後?」


「影に飲まれた後」


「ああ…」


朱雀によると、あの後なぜか大きな屋敷の庭に倒れていて、そこで玄武たちと再会したという。


「今はその屋敷に住んでる」


「…いわく付きじゃないだろうな?」


「いや…白虎のじいさんの持ち物だったらしい。村がああなる事を見越してたのか知らねえけど」


そうこうするうちに大きな門の前に到着した。

どこかの寺の入口みたいに馬鹿でかい。

いつの間にこんなものを…



「でかい…」


「オイ、キャベツ!!!!」

「キャベツ?」

門に向かって叫ぶ朱雀を見つめる。


すると、カラコロと下駄の音がして門が開いた。

そこから青い髪の青年が笑顔で飛び出す


「おっかえり~!!朱雀くんっ!」

「うるせぇ」

一蹴する朱雀。


「え、いつもだけど、厳しい!」


「ホラ、龍愛連れてきた」


「うわぁあ本当だ!久しぶり龍愛ちゃん!!!俺だよ~玄武だよ!覚えてる!?」


私より少し背の低い玄武が近づいてきて肩を思いっきり揺すってくる。


「お、覚えてます…!」


「キャベツ野郎、ちょっとこっち来い」


すかさず朱雀が玄武の襟を掴んで引きずっていく。

しかしそんな状況でも玄武は私に笑顔を向ける


「龍愛ちゃんも上がって上がって~っ」


そんな状況に驚きつつ、

とりあえず着いていった。



(続)



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