第3話

-龍愛side-



ずっと感じていた。

森の奥に潜む何かを。


村に迫り来る気配がして、項がチリチリした。

だから私は、一人で森へと入った。


さっきは村の奴らに邪魔されてたけど、今なら……



「…………」


じり、と地を踏みしめて、刀を構える。

余計な考えは全て振り払って、周りの音だけを探る。

虫が這う音さえも聞き逃すまいと、私は一層集中した。






「     」






───来た。








無意識に手に力が入る。


怯えたらだめだ…!



「…………」





『綺麗ね……』



「!」


突然、少女の声が聞こえた。

頭の中に響くようなその声に一瞬思考が止まる。


次の瞬間、視界が真っ黒になって、何も分からなくなった。





-朱雀side-


目の前の光景は信じられないものだった。


森の木々は無残に薙ぎ倒され、

ほぼ全てが腐敗している。


その中心に、龍愛が倒れていた。


「龍愛!」


すぐさま駆け寄って声をかけたり、揺すったりしたが、龍愛は一向に目を覚ます気配がない。

ここに留まるより、早く家に連れて帰った方が良いと考えた俺は、龍愛をおぶって来た道を引き返した。


森の中を一目散に走り抜け、村に着いた俺は目を疑った。


村が赤く染まっている。空も、建物も植物もみんな。


そこら中火の海だ。


「……っなんで……」


さっきまで何事もなく、いつも通りの日常だったのに。

近所の人たちはどこへ行った?

元気に走り回っていた子どもたちは?

幼なじみの玄武と白虎はどこに消えたんだ?


「なんで、」


おかしい。有り得ない

すぐに悟った。


「どうして誰も居ないんだ!!」


人の気配などそこには無い。



あるのは、

おぞましい憎しみの念だけだった。







-龍愛side-



『あ、咲いてる!』




『本当に綺麗……』




『一年間、私たちも生きてきたのね。……これはその証』








『……ね、  もそう思うでしょ?』




ザーッとノイズが入って断片的に流れる映像。

霞がかってよく見えないが、少女の亜麻色の髪が揺れて、嬉しそうな笑みが見える。

名前は聞き取れなかったけど、少女はこちらに話しかけてくる。

誰かの記憶なのだろうか

綺麗で、どこか切なくて、儚くて

消えてしまいそうな彼女に手を伸ばし……───




「……っ……」


重い瞼を無理やり開ける。 

温かな感触は、朱雀の背中だろう。


「す、ざく……?」


「龍愛…!」


「ここ、どこ?」


そのときの私は燃え盛っている目の前の景色に驚愕し、

自分の生まれ故郷とは思っていなかった。


「ここは、俺たちの村だよ」


だから、妙に落ち着いた朱雀の言葉の意味が分からなくて。


「……ウソだ」


「ウソじゃない」




私は朱雀から降りて、彼の前に回り込んだ。

無表情の朱雀の瞳に映る炎を見て、悔しくなる。


「みんなを助けなきゃ!」


「居ないよ」


「母さんは!?玄武たちはどこ!?」


「誰も居ない。みんな死んだ。分かるだろ?今ここに居るのは馬鹿みたいに怒り狂ってる妖だ」


「っ」


…分かってる。

森で感じた気配と全く同じものが村中に渦巻いて、激しい怒りに任せて暴れ回っている。


私が逃がしたからこうなった。


村のみんなも、みんなの大切なものも、私が油断したあの一瞬で消えてしまった。


気がつけば、私は涙を流していた。

大粒の涙は怒りに満ちて熱くなっていた。


「私のせいだよ。私が逃がしたから。」


「…そんなこと」


「私のせいなの。だから、…今度こそ倒す」


「龍愛!」


朱雀の制止を振り切って、私は村の中に飛び込んだ。


身体中を締め上げる憎悪を辿って走る。

その先に見えたのは、一人の少年。


私は素早く抜刀し、少年に斬りかかった。




(続)






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