第2話


――話は十年程前にさかのぼる。




ここは ある古い村。

田畑が広がるのどかな所。

山のふもとにあり、虫や花たちが季節をそっと教えてくれる。



その村の山の中にて…



「この化け物!」

「死んじまえ!」

「やめて…っ…やめてよおぉッ!」


そこには二人の小さな少年と、さらに小柄な薄紅色の浴衣を着た少女。

二人の少年はその少女を力任せに蹴りつけていた。

少女は叫んで抵抗するが、少年二人にかなう筈もなく、

ただされるがままで、腰まである柔らかな髪は血に染まっていた。


だが、この血は少年たちの暴力によるものではない。


「お前ら何やってんだよ!」

突如、爽やかな少年の声が響く。…朱雀だ。


二人のうち片方の少年が口を開く。

「何って…こいつは太刀を持ってんだ!これで妖を殺してた!俺たちだって、いつこいつに殺されるか分かんねぇぞ!」

「彼女は俺の妹だ。離せ。」

いきり立つ少年とは対照的に、朱雀は幼いながらも、冷静に淡々とした口調で話す。


「離したらお前、こいつを庇うんだろ!?それに、お前もこいつと同じ太刀を持ってるじゃないか!」

「なら、お前らは俺たちがこの太刀で人間を殺めたのを見たか?その目で見たのか?」


「…っ」

少年は口をつむぐ。




「さぁ、龍愛を離せ。…早く!!」

朱雀は二人を睨み付ける。

瞳は血の色に染まっていた。


それを見た少年は目を見開き、硬直した。

そのまま、もう一人の少年に引っ張られるように去っていった。



朱雀は少年たちが完全に見えなくなると、龍愛に向き直った。

龍愛は未だに身体を両手で抱えて震えていた。


「…龍愛」


朱雀はしゃがみ込み、龍愛の顔を覗き込む。

龍愛の顔は血に塗れ、髪は血で固まっていた。




‐朱雀side‐


俺は倒れこんだままの龍愛に言った。

「龍愛。帰るぞ。肩貸すから立って」

手を差し伸べると、ぱしっと払われる。

小さな手の小さな力。しかしその力は、強い拒絶の色を見せていた。


「いいよ、一人で立てる」

「わかった。じゃあ行こう。母さんたちが待ってる」

俺はなるべく穏やかに微笑んでみせた。

ゆっくりと歩き出す…が、なかなか龍愛が来ない。


一歩、また一歩と進む…


まだ龍愛が来る気配はない。



…いつもより遅い…


俺はそんなことを考えながら森の出口へと歩みを進める。


こんなふうに龍愛が村の奴等に苛められて、それを俺が助けて、龍愛は足が遅くて…


そんなのは珍しくないのだけど、



こんなに遅いのは滅多に無い。



「…まさか」

嫌な予感が頭の中をよぎる。

本人は強がっていたが、あの状態の龍愛は一人で立ち上がることが出来るだろうか…

それに、この森は妖が出没することで有名。村の大人たちは口を揃えて『近付くな』と言う。

俺たちは対処できるから良いものの…

しかし龍愛はあの状態だ。


もし、そこで妖に襲われたら…



「っ!」


俺は踵を返し、龍愛の元へ走っていった。




(続)


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