ナツ

鼻詰寿

一話目

 はじめは、たしか12年前。二つ上の兄と外で遊んでいると、空だった檻(ハナが入っていた)に犬がいることに気づいた。とてもびっくりして、ハナが帰ってきたのかと一瞬思ったけど、すぐにこれは違う犬だと分かった。(犬種と色と大きさと性別が一緒だった)。

 

 すぐ父に聞いてみると、もらってきたという。父は柴犬だと言い、その時、ナツという名前を知った(本名は夏菊だか夏勘だかという)。あとで父とふたりで散歩をしているときに、実は北海道犬だとぼそっといわれ、やがて家族も知ることになる。

 

 ナツは北海道犬にしては温厚な犬だった。前にいたハナは人に噛みついて遠い山に捨てられたし、その前のマイも家族以外にはうなる犬だった。しかしナツは初めて会ったとき、吠えもうなりもしないし、手を伸ばせば、べろっとひとなめした。

 

 なでられるのが好きで、特に背中と腹は一日中でもなでられていたと思う。それでも人以外が相手になるとやはり狼の子孫であるから血がさわぐらしかった。

 

 散歩をしていて野良犬と目が合うと、飛びかかろうとしたし、砂浜でリードを外して、走る父の車についてこさせる運動をかけたときは、キツネやタヌキをみつけてよく道から逸れ、しばらく戻らないこともあった。

 

 つながれていてもネズミのにおいを察知しては地面を掘り、鼻をつっこんでふがふがさせていた。

 

 そんなときのナツは動きが速く、顔も凛として耳もピーンと立って、それはもうかっこいい犬だった。

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ナツ 鼻詰寿 @hanadumarikotobuki

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