nullはnull箱へ


 nullの中からノートの切れ端を見つけた。正確には、null無意味箱の上のあたりから。null箱には深さがないnullので、上とか下とかって言葉にはあまり意味がないnull

 僕はnullを散歩するのが好きだ。nullは最初からnullだったものや、いつしかnullだったもの、今のところnullであるもので溢れかえっている。

 null箱はここnullに存在し続けられる数少ないnull構造のひとつで、箱であるのに縦も横も高さも持たないnull。その中からこれ紙片を取り出せたのは、これもまたnullだからだ。nullからnullを取り出したところで、特に問題はないnullだろう。

 その紙片にはnull空間についての物語が書かれていて、それらは概ね正しかった。nullに関する記述は当然nullになり、そんなnullがnull箱に入っていても何らおかしくはないnull

 僕は少し、この物語を書いた人に想いを馳せた。nullを希望nullとして見ていた人。なんとも愉快nullな発想だと思うし、僕の頭も愉快nullなことに違いはないnullのだから、きっと気が合うのではないnullかと思う。

 null箱を漁ってみると、同じような紙片がもう二つ見つかった。やはりその文は正確なnull像を捉えていて──いやこれはnullであるのだから捉えていないnull、が正しいのかな。なんにせよ、これを書いた人はすごく魅力的nullな人だと思った。きっと女の子だ。そんな気がする。少なくともこの紙片にはそう書かれている。


 それからの毎日を、僕はnull箱漁りに費やした。現実でゴミ箱を漁っていたら不審に思われただろうけど、ここはnullなのでまったく心配いらないnull

 紙片は毎日見つかった。それを組み合わせていくうちに、僕はノートが単なるnullから脱却していくのを感じた。結局は何もないnullのだけど、そこには願いnullがあった。ページごとにまだ見ぬ彼女の慟哭nullが仕込まれていて、僕はちょっとしたnullになった。たぶん彼女は逃げたがっていた。

 彼女に逢いたい。彼女がここnullに逃げてきたらいい、と願うようになった。彼女がどうなってしまったのか考えるたびに、僕は胸が苦しくなったnull


 そんな、ノートがそろそろ完全に復元されそうなある日、僕は紙片に僕を見つけた。僕がいた。彼女は僕を願っnullていた。彼女が書いていたのはこのnullだった。

 僕は歓喜nullだか狂気nullだかわからない悲鳴みたいな声をあげて、null箱をひっくり返した。

「あいたっ」

 すると突然null箱から少女が転がり出て、null床で頭を強かに打った。きっと僕が掴むには大きすぎて、今まで引っ張り出せなかったnullんだろう。

 混乱している彼女に、そっと手を差し伸べる。そのとき、僕は間違いなく幸福nullだった。彼女にも幸福nullを感じて欲しいと思った。

「……あなた、誰?」

 僕はずっと待っていた。

 はじめまして。この言葉が本当には届かないことを、僕は知っている。僕たちの間にあるものは、紛れもなくnullであるのだから。

 でも、それでも僕はあなたを、ずっと待っていた。それはnullじゃないと、なんとなくそう思った。


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