オメガより1日前
◆
50km/hを超えている。
オメガが走る速度だ。オメガは当然だが人間で、人間はそんな速度では走れない。だから当然、そこには絡繰りがある。
今のオメガにとっては前方が下だ。オメガは重力の記述を書き換えている。つまり彼は半分落ちている。80°ほどの急勾配を駆け下りる感覚だろう。──驚くことではない。ベクトルの書き換えは、今や計算化兵士の基本技術だ。
初めて計算化兵士が戦場に投入された時、誰もがその性能に恐怖し、同時に歓喜した。落下傘も持たずに戦場へ落ちてきた彼らは、当然のように壁を走り、空を飛び、ライフルの弾道を自在に変化させ、戦車砲の砲弾さえ正面から受け止めた。生身でだ。
もちろん厳密な意味で生身ではなく、
走り続ける。数多の火線を潜り抜けて。どの戦場でも、オメガたちは英雄だった。それはいつか書かれるべき物語かもしれないが、ここで書くには長すぎる物語だ。
オメガたちは戦争をした。とっくに一生分の戦争をした。世界が修繕され、時間が巻き戻っても、
走り続けた。数多の火線を潜り抜けた。
二十年前から、地上2000mに滞空している彼らの拠点。彼らが最初に降ってきた場所の真上。そこがオメガたちの目的地だ。
機械化兵士たちを殲滅しなければ、世界に平和は戻らない。平和を人々が望むなら、
当然のことだ。
空へと降下する。すべてを元に戻すために。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます