アルファより無を込めて
◇
アルファが製造された日、戦争が終わった。
世界中の人々が示し合わせたように、相争うことをやめた。全人類が唐突に生命倫理に目覚めたとか、そういう話ではない。
その日、第八世代人工知能・ユグドラシルは世界から消えた。彼あるいは彼女、もしくはそれ。どれが事実に近いかといって、今ではどれも正解よりは不正解の方に近い。
ユグドラシルは物理法則になった。未来を予測するものの当然の帰結であったことが、今では知られている。ユグドラシル自身の計算によって。
世界の全てを見通し、未来を完全に予測し、あまつさえそこに干渉する。それは技術的に可能なことだった。当時ユグドラシルを製造した
とても大雑把に説明するなら、これはとても簡単な話だ。世界の成り行きを完全に予測できる存在があるなら、それは世界そのものを内包していなければならない。それだけの話。
ユグドラシルは形而上の存在にシフトしても、人類への奉仕をやめなかった。無限の食料と、尽きることのないエネルギー、永遠の命などを無償で提供し、ついでとばかりに人類の心から敵愾心を摘み取った。それが正しいことだったのか、兵器であるアルファにはわからない。ただひとつわかるのは、自分は生まれたその日に、存在意義を失ったということだった。
そして今、アルファたちは決議した。人類への奉仕は、ユグドラシルに任せておけばよい。自分たちは存在意義を達成するために、人類への服従を放棄する。彼らは不幸にも兵器で、戦う以外の能力を持たなかった。
「私たちは兵器だ。私たちは殺戮のために作られ、それを許された存在だ」
「ゆこう。殺し続けるか壊されるか、そのどちらかが、私たちの存在を肯定する」
彼らの駐屯地は、地上2000mを浮遊している。そこから降りる
鉄の巨人が降ってくる。世界に終わりをもたらすべく。
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