第57話 未来、世界を変えてやる


 夏祭りからの帰り道。

俺は先輩を家まで送り届けていた。


 静かだけど、気まずいわけではない。

そんな空気が流れていて。


 「先輩、俺たち、昔あってたんですね」


 口をついてそんな言葉が出ていた。

先輩は驚いたような顔をしてから、いつもの天使フェイスで微笑み、頷いた。


 「すいません。忘れてたわけじゃないんですけど」

 「ううん。気づいてくれて、嬉しい」


 そうして先輩ははにかむ。


 「先輩、おひさしぶりです」

 「あ・・・・・・」


 恥ずかしそうに手を合わせ、そしてまた上目遣いで、


 「うんっ!久しぶり、彼方くん!」


 



 俺と、先輩は幼馴染みだった。

ずっと昔、一緒に遊んで、笑いあって。

多分俺の・・・・・・、初恋だった。


 そして、俺は今も、今でも。


 「先輩」

 「え?どうかした?」


 言わなきゃ。

いいや、違う。

言いたい。

 


 「ずっと好きだった」



 先輩からの応答はない。それでも続ける。


 「思い出した途端こんなこと言って、軽いヤツだって思われるかもしれない。でも、好きだった。ずっと、好きだ」


 「え、ぇ?え・・・・・・?」


顔を真っ赤にし、戸惑う先輩に俺はたたみかける。


 「高校に入って、先輩と出会って、いや、再開してからも惹かれ続けてた。だから・・・・・・」


 「・・・・・・っ!・・・・・・っっ!?」


 「好きだよ、先輩。俺と、付き合って欲しい」


 「~~~~~っ!」


 もう振り切ってる。

顔が熱い。でも、それでも言いたかった。

伝えたかった。


 「ダメかな」

 「だ、ダメじゃない!ダメなんかじゃ・・・・・・」

 「先輩?」

 「でも、だって・・・。い、いきなりすぎるよ・・・・・・」


 先輩は俯いているけど、耳まで赤くなっているのが分かる。

確かに、いきなりだったかもしれない。

だから、もう一度。

ゆっくりと。

 

 「先輩、好きです。俺と、付き合って下さい」


 先輩が俺を見つめ返す。

その顔は、物凄く可愛くて。

ほんの少し潤んだ瞳に俺を映して。


 「うんっ」




 夏祭りの夜、俺は先輩と付きあい始めた。





 「で?そのリア充さんが私に何のご用ですか?」

 「・・・・・・・・・・・・」


 机に頬杖をつきながらこちらを一目見やると、そんな言葉を投げかけてきたアロラ。

リア充にひがむ女神って。

いや、そうじゃなくて。

 

 「俺、世界を救うよ」


 「え?何言ってるんですか?中二病はほどほどにどうぞ」

 「って、うぉぉおおおいっ!!」


 我ながらいいツッコミだったと思うよ。うん。


 「お前が言ったんじゃん!世界が滅びるから、俺に救ってくれって!」

 「あぁー。そんなこと言いましたね、忘れてました」


 ・・・・・・・・・この女神、ダメだ。


 「なんか、冷たくないか?お前」

 「えー、そんなことないですよ。自意識過剰ですか」


 なんでだよ・・・。

辛辣だなぁ。


 「どう言う風の吹き回しですか?」

 「・・・・・・思い出が出来たんだ」

 「・・・?」

 

 「俺の周りで、皆が笑ってて、山田とか、天童とか鍵浦とか川崎姉妹とか。そして、お前や先輩、メムタチア。高校入って半年たったかたってないかぐらいだけど、忘れたくない思い出が出来たんだ。失いたくない、想いが出来たんだ。お前が、アロラが来てからだよ」


 「・・・・・・」


 「この場所を、守りたい。この学校を、この町を。俺たちが死んだ後もずっと。だから、だからさ・・・・・・」


 「・・・・・・・・・・・・」


 黙って俺の方を向いていたアロラが大きく息を吐いた。

そして、いつものように、女神のように、微笑んだ。

いや、女神だったか。


 「気づいてますか?彼方さん」

 「え?」

 「あなたは、もう面倒くさがりなんかじゃありませんよ」


 今度は俺が黙る番だった。


 「いいえ、違いますね。あなたは昔から変わってない。

 優しい、彼方さんです」

 

 「昔、から?」


 「はい、気づいてないとは思いましたが、私は昔から彼方さんを

 見てたんですよ」

 「え!?マジで?」

 「マジです。だから、お二人が凄くお似合いだってことは私が

 保障しておきますよ」


 お二人、か。


 「ありがとな、アロラ」

 「いえ、私は女神ですから」

 「そうだな。そうだったよ」



 「じゃ、未来を変えに行きましょうか」

 「ああ!」


 変えてやる。

滅びさせてやるかよ。

未来、世界は滅びるらしい。

だったら俺は、そんな未来は変えてやる!


 「俺は、何をしたらいいんだ?」


 覚悟は出来てる。

なんだってやってやるさ。


 「え?いや、一緒に来てくれるだけでいいんですけど」


 「え??」


 「え?」


 ・・・・・・・・・・・・ん?



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